尖閣諸島問題で日本人の対中感情が過去最悪となり、北朝鮮の韓国砲撃で朝鮮半島の緊張がかつてないほど高まるなか、東アジア安定の鍵を握る米国は日米中関係をどう見ているのか。米国における東アジア研究の重鎮であるロナルド・スレスキー博士に、最近の米国の対中・対日観やアジア外交の変化の兆しなどについて聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)

――尖閣問題では中国側が強硬姿勢に出て日中関係が悪化したが、両国の対応をどう見るか。

「アニメ・漫画以外で日本への関心は低い。<br />米国人は“前向きに”中国に心惹かれている」<br />東アジア研究の重鎮が見た日米中三角関係の深層ロナルド・スレスキー
(Ronald Suleski)
ハーバード大学中国研究学科副部長や同フェアバンク東アジア研究所副所長などを経て現職。現代中国史が専門で、著書に「満州の近代化:参考書目の注釈」(1994年)、「督軍中国の文民政府:伝統と近代化と満州」(2002年)などがある。日本・台湾・韓国に長く滞在し、日本では英米学術誌の編集者や日本アジア協会(ASJ)会長などを務めた経験がある。ミシガン大学で現代中国史の博士号を取得。

 今回中国側が激怒して次々に報復措置を取ったのは、中国人船長が逮捕・拘禁されたことで民主党政権の対応が前自民党政権と変わったと判断したからであろう。実際は民主党政権になって対中政策の中身が大きく変わったわけではないのだが(トーンが少し変わったぐらいで)、相手側はそう思っていない。したがって何か起こると、中国側が過剰反応して大事件になったりするのだ。

 韓国と北朝鮮の間でも似たようなことが起きている。韓国では保守派の李明博政権が誕生し、北朝鮮に少し厳しいメッセージを発し始めた。実際には韓国の対北政策が大きく変わったわけではないのに、北朝鮮は過剰反応している。

 尖閣諸島問題は1970年代に持ち上がり、その後日中両国は何度も争いを繰り返している。根本的な原因は油田や海上交通路などにあるとされるが、今となっては、それらは両国にとってそれほど重要ではないように思える。

 中国は東シナ海の油田開発を本気でやろうとしているように見えない。中国としては尖閣は領有権の問題なので簡単に引き下がれないが、やり過ぎることも望んでいないのではないか。日本にとっても同じようなことが言える。

 私に言わせれば、この問題は「おまえなんか怖くない」とお互いに強がっている“子供のケンカ”のように見える。

――尖閣問題の解決策はあるのか。

 今のところ、現実的な解決策は考えつかない。イスラエルとパレスチナを見ても領有権をめぐる争いは両者が何か共同提案しても、お互いの主張の根本的な違いを埋められない限り、解決は非常に難しい。

――では、東アジアの緊張が高まるなか、米国人は中国や日本をどう見ているのか。