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ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。
【第30回】 2016年11月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
原田まりる [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

さすが実存主義の先駆者!デンマークの尾崎豊!【『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』試読版 第21回】

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17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会って、哲学のことを考え始めます。
そしてゴールデンウィークの最終日、ニーチェは「お前を超人にするため」と言い出し、キルケゴールを紹介してくれます。
そのキルケゴールは、「アリサさんは“主体的真理”を持っていますか?」と静かに語りはじめるのでした。
ニーチェ、キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガー、ヤスパースなど、哲学の偉人たちがぞくぞくと現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていく感動の哲学エンタメ小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。今回は、先読み版の第21回めです。

アリサさんは“主体的真理”を持っていますか?

 キルケゴールはそう言うと、手元にあるゼリーに目を向け、しばらく黙ってみせた。そして、しばらくして、静かに語りだした。

 「アリサさんは“主体的真理”を持っていますか?」

 「しゅたいてきしんり……?どういう意味ですか?」

 聞いたことのない言葉を出すキルケゴールに、私は尋ねてみる。

 「そうですね、例えば僕は、黒ずくめのファッションが好きで、こういったファッションを追求しています。
 しかし、これは自分にとってのお洒落であって、流行とは関係がない。主体的真理とは、“自分にとっての真実”みたいなものです」

 「自分にとっての真実、ですか?」

 「そう。例えば流行りのファッションや髪型があるとしますよね。全身流行りに身をつつんで街中を歩いたとしましょう。
 その流行りの髪型やファッションが自分にとって“ちょっとダサい”と感じていたとするならば、“ちょっとダサい”というのが“主体的真理”になります」

 「ようは、自分の気持ち、みたいなものですか」

 「そうだね、自分の気持ちというか“自分にとってどうか”という意見ですね。僕は自分という存在の生きる意味についていつも考えている。例えば――」

 キルケゴールは手元のグラスを持ち上げ、こう続けた。

 「例えば、このグラス。“このグラスは何で出来ているの?”とか“水は人類にとってどういう存在であるべきか?”とかの議論は、僕にとってどうでもいい」

 私もこの意見には同感であった。授業で習った哲学者が取り上げているテーマは「国家について」や「神について」などであった。国家のあり方や、神の存在について勉強することが、どうも自分とはかけ離れたテーマに思えたので、哲学者は「小難しい議論好きな人」だというイメージを持っていたからだ。なので哲学者であるキルケゴールが「どうでもいい」と言い出したことに驚いた。

 「僕は、神がいるかどうかを“実証”することには興味がない。
 ただ、自分が生きる上で神を信じた方が、生きることに真剣に向き合えると思う。だから僕は神を信じたいし、信じている。何が言いたいかというと、僕は、自分はなんのために、どう生きるかを追求しているんだ」

 ゼリーを食べ終わり、暇をもてあましていたニーチェがスマホゲームをしていた手を止め「さすが実存主義の先駆者!デンマークの尾崎豊!」とはやし立てる。

 「やめてよ、その呼び方」と恥ずかしそうにしながらも、キルケゴールはまんざらでもなさそうであった。

 私は自分が自分でないような、不思議な気分に陥っていた。

 このお店の神秘的なブルーの照明によるものなのか、あまりに浮世離れしたことを話すキルケゴールのせいなのか、なぜかはわからないが、自分の人生がとてもロマンティックなもののように思えてきた。

 これまでは、このまま高校を卒業し、大学に進学して、就職して、結婚してと、なんとなく描かれた未来図に沿うように歩いてきたものの、自分の人生の意味や、何のために生きているのかを真剣に考えたことはなかったからだ。

 何のために生きているか。という壮大なテーマを考えるよりも、もっと現実的なことに目を向けつづけてきたからだ。そんな私にとって、キルケゴールの話は上空から、世界を覗いているようでとても神秘的であったのだ。

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原田まりる(はらだ・まりる) [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、 哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。 著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある。


ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。

17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会います。哲学のことを何も知らないアリサでしたが、その日をさかいに不思議なことが起こり始めます。キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガーなど、哲学の偉人たちが続々と現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていきます。本連載では、話題の小説の中身を試読版としてご紹介します。

 

「ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。」

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