3000億円超の大規模公募増資から2年。業績は最高益を更新し、国内外で着々と開発を続けている。証券市場で期待された新たなビジネスには結果として関与せず、ひたすら既存の事業を拡大している。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)
3289億円はどこに消えたのか──。2014年6月、三井不動産は公募増資によって巨額資金を調達した。その前年にはシャープ、三菱自動車など経営難にあえぐ企業が相次いで公募増資を実施したのに対し、不動産業界のリーディングカンパニーによる大規模増資は、ポジティブなものと好感された。
当時、証券市場で期待された増資の使途は、東京臨海部へのカジノ誘致や築地市場の豊洲移転による跡地の大規模再開発、そして全国で始まりつつあるコンセッション(公共インフラの運営権売却)への参画──だった。
増資から2年が過ぎた今、三井不の財務とビジネスはどうなっているのだろうか。
まず、足元の業績は実に堅調だ(表(1))。14、15年度と連続で過去最高益を更新し、16年度通期見通し、そして中期経営計画の目標値を達成できれば、更新は続く。
不動産経済研究所によると、8月の首都圏のマンション発売戸数は前年同月比24.7%減の1966戸となり、9カ月連続での減少だった。アベノミクスによる株高が一巡し、マンション販売にも一時の勢いはもはやない。
ただし、三井不が今期販売して業績に計上する予定の5450戸のうち、5月時点ですでに7割が契約済み。現在の販売活動の中心はむしろ来期分、すなわち17年度に計上予定のマンションであり、今期の分譲事業はおおむね見通し通りとなりそうだ。
むしろ近年の成長ドライバーは、「ららぽーと」に代表される商業施設だ(図(2))。全体に占める割合はまだ小さいが、12年度から15年度にかけて、営業収入(売上高)は約37%増加している。
ららぽーとの強みは、イオンがショッピングセンターを郊外に次々に出店して商圏を広げていくのに対し、都心の近くや交通結節点など、従来購買力の高いエリアを選んで出店している点にある。
しかもある程度出来上がった消費地に進出するため、イオンのように自社でスーパーなど生活必需品の販売網を手掛ける必要がない。5~6年に1度のリニューアルを行い、より集客力のあるテナント誘致に専念すればよいのだ。
三井不は商業施設運営に自信を深めており、海外での展開も広げる。15年度には台湾とマレーシアに三井アウトレットパークを開業し、20年度には中国・上海、21年度にはマレーシアの首都・クアラルンプールの都心の一等地にららぽーとを開業させる予定だ。