10月31日、三菱UFJ信託銀行は「信用金庫の中央銀行」と呼ばれる信金中央金庫の傘下にある、しんきん信託銀行の買収を発表した。超低金利が続く状況で経営環境が悪化する中、信託業界では買収や提携が相次いでいるが、実はその裏では、信託銀行のビジネスモデルを根本から揺るがしかねない事態が進行していた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

 10月下旬、ある信託銀行幹部は金融庁幹部と向かい合い、神経戦を繰り広げていた。監督官庁である金融庁が、現在の信託業界に対して持っている問題意識を探るためだった。

 “台風の目”である森信親長官を中心に今、金融庁は金融業界全体に及ぶ改革に突き進んでいる。

 その代表例が地方銀行だ。金融庁は地銀に対して、ジリ貧に陥っているビジネスモデルの抜本的な変革や、地元経済への貢献を強く迫っている。そのプレッシャーの余波は業界再編の呼び水となり、地銀業界は激動期に突入している。

 こうした地銀の苦境は信託業界にとっても対岸の火事ではない。金融庁の改革の矛先が信託業界にも向き始めていることを感じて、その信託銀行幹部は金融庁幹部との会談を取り付けたのだった。

 その会談から程なくして、信託業界の地殻変動の一端が垣間見える出来事が起きた。

 10月31日、三菱UFJ信託銀行が「信用金庫の中央銀行」と呼ばれる信金中央金庫の傘下にある、しんきん信託銀行の買収を発表。来年9月をめどに、全国の信金が販売する残高約1.3兆円の投資信託の資産管理を引き継ぐ。

信託銀行、再編の裏で問われる根源的な「存在意義」三菱UFJ信託銀行は、今年7月に明らかにした米資産管理会社の買収に続き、新たな買収案件を発表。重点戦略である資産管理関連ビジネスの強化を進めている Photo by Takahisa Suzuki

 三菱UFJ信託は安定的な収益を稼ぎ出す資産管理関連ビジネスの強化を重点戦略として掲げており、今年7月にも管理残高を約6兆円抱える米資産管理会社のライデックス・ファンド・サービシズを買収すると発表したばかりだ。今回もその一環での買収となる。

 一方、三菱UFJ信託の競合である三井住友信託銀行は昨年8月、ゆうちょ銀行と日本郵便、証券大手の野村ホールディングスと共同で資産運用会社を設立。さらに、2014年11月には、大手地銀の横浜銀行(神奈川県)とも資産運用会社を共同設立している。

 多くの金融機関が、日本銀行が導入した異次元金融緩和やマイナス金利政策による超低金利状況で資金運用難に陥り、経営環境は悪化を続けている。事情は収益改善を金融庁に迫られている地銀だけでなく、信託銀行も同じだ。

 そして、そのビハインドを少しでもはね返そうと、信託業界は買収や他業態との提携などが相次ぐ激動期に突入しているのだ。