引きこもる当事者による当事者のための新聞が創刊。同新聞は関係者たちの心をどう変えたのか

 引きこもる当事者のための当事者による「ひきこもり新聞」が11月に創刊され、話題になっている。

 この新聞の特徴は、文字通りスタッフが、今も引きこもっている本人、もしくは引きこもり経験者たちで制作しているということだ。これまで支援者や家族会が発信する機関誌などはあったものの、引きこもってきた当事者たちが自らの意思により自分の言葉で発行する新聞は、初めてではないかと思う。

「ひきこもり当事者の声にもっと耳を傾けてほしい。マスメディアが作り出すイメージや一般的な価値観で切り捨てないでほしい」

 11月1日に発行された創刊号の1面で、木村ナオヒロ編集長(32歳)は、創刊する理由をこう綴った。

「引きこもり当事者たちを更生施設に連行するなど暴力的な支援団体を紹介する動画や、彼らをヒーローのように扱うイメージ先行の報道を問題視する斎藤環さん(精神科医)らの声明を見て、黙っていられないと思ったんです。僕もそれまで引きこもり状態にありましたが、やはり当事者自らが声を上げなければいけないのではないかって」

 木村さんは、高校を卒業するまでと大学に通っていた期間を除くと、10年あまりにわたって引きこもり状態の生活を続けてきた。大学受験に失敗したり、司法試験を勉強したりしていた間、浪人していたことが恥ずかしくて、他人に知られたくないと思い、人間関係がなくなったことがきっかけだ。

 しかし、声明が会見で発表された直後の4月下旬、木村さんは茨城県で開かれた「ひきこもり大学」というコミュニティの場で同じ当事者と知り合ったことや、6月に横浜で開かれた「ひき桜」という当事者グループの1人で、たまたま「不登校新聞」(NPO法人・全国不登校新聞社発行)のスタッフをしていた石崎森人さん(33歳=後の「ひきこもり新聞」副編集長)と出会ったことで、「不登校新聞があるのなら、ひきこもり新聞があってもいいのではないか」と思うようになったという。

「怒りのようなものが先行していました。これまで親が自分の人生を支配してきたことと、こうした強制的な支援のやり方がダブって見えたんです」