米ニューヨークの金融地区ウォール街は、世界金融危機の震源地となり、「諸悪の根源」のそしりを受けてきた。しかし、米大統領選挙の結果を受けて今、風向きが急変している。
ヒラリー・クリントン=ウォール街。今回の米大統領選挙で共和党候補のドナルド・トランプに敗れた民主党候補のヒラリーには、そんなイメージが付きまとっていた。
米ニューヨーク・ウォール街の銀行は、2000年代後半に発生した世界金融危機で“主犯”の烙印を押され、嫌われ者に成り下がった。ヒラリーはそんなウォール街から多額の講演料や政治献金を受け取ったことを格好の攻撃材料とされ、ライバル候補に「ヒラリーはウォール街の回し者」というレッテルを貼られたからだ。
入れ込んでいたヒラリーが大統領選で敗れ去った今、さぞやウォール街は落ち込んでいるだろうと思いきや、実は正反対だ。
世界金融危機の反省から、米国は民主党のバラク・オバマ政権の下、国際金融規制よりも厳しい独自の国内規制、ドッド・フランク法(金融規制改革法)を導入。
「大き過ぎてつぶせない」という問題を解決するため、当局の銀行監督権限を強化し、銀行には自己資本やリスク許容範囲などに関する規制強化を突き付けた。
ところが、トランプの政権移行チームはそのドッド・フランク法を「取り除き、新政策に置き換える」と発表。これが米銀の収益の追い風になるとみられ、ウォール街はトランプ勝利がもたらした一足早い“春”を謳歌している。
ただ、その実現可能性は不透明だ。前述のように、ウォール街への風当たりは今もなお厳しい。9月には米銀大手のウェルズ・ファーゴが顧客に無断で口座を開設していたという不祥事が発覚し、国民の怒りは再燃。彼らを利する規制緩和の実現は困難が予想される。