ニューヨーク大学スターン経営大学院教授 1959年イスタンブール生まれ。経済学博士(ハーバード大学)。リーマンショックを予言したことで知られる。著書に『大いなる不安定』(ダイヤモンド社)。
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2008~09年の景気後退時に先進国・新興国が実施した財政刺激策、金融緩和と金融システムへの支援措置により2010年は大不況から大恐慌へと陥ることは防げた。民間需要の全要素が崩壊するなかで、政府支出の増大と減税は、グローバル経済のフリーフォールを防ぎ、景気回復の足場を生み出した。
残念ながら財政刺激策による支出と、関連する金融システムの救済、景気後退による歳入への悪影響が複合した結果、先進国における財政赤字は対GDP比10%台となった。IMF等によれば先進国の公的債務の対GDP比は危機前の70%に比べ、15年までに110%を超える。人口高齢化を考えれば、積み立て不足の年金制度や医療費上昇で長期的には公的債務がさらに増加するだろう。
先進国では今後の財政破綻を回避するために財政赤字の削減が必要だ。だが、IMF等の最新調査も含む多くの研究では、政府支出の削減や増税は短期的に総需要に負の影響を与え、デフレ・景気後退に拍車をかけ、財政再建を骨抜きにする。
中長期的な財政調整について政治家の公約が信頼できるような理想的世界では、今後10年、景気回復に合わせて段階的に歳出削減・増税の計画を描くのが最適かつ望ましい道だろう。そうであれば再び短期に的を絞った刺激策を必要とする場合でも、金融市場が負債コストを高めるという反応を示すことはないだろう。
だが、先進諸国の財政政策は、信頼性の高い中長期的な財政再建と短期的な追加刺激策の組み合わせからは乖離する。
最悪は米国だ。景気刺激策は、中間選挙での共和党の大勝で、第2期の景気刺激策の可能性が排除されるはるか前から、政権内部でさえ禁句になった。他方、党派性が強まり共和党が増税に反対し、民主党が社会保障など給付金制度の改革に抵抗する現況では財政再建はほぼ不可能。債券市場からは政治家の意識を財政赤字に集中させようという圧力はまず見られない。