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『週刊ダイヤモンド』特別レポート

川村元気氏に聞く“時代の空気”をつかむために必要なこと(下)

川村元気(小説家、映画プロデューサー)インタビュー

週刊ダイヤモンド編集部
2016年12月2日
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>>(上)から続く

複雑で多様な感情を与えるのが
今のエンターテインメント

──表層と深層の二つの層を用意したというわけですか。

Photo by Y.W.

 5層(レイヤー)ぐらいは重ねています。恋愛小説を書く→実録のモデル小説にする→恋愛できない人たちを描く→恋愛できないことを、恋愛できない今と恋愛をしていた過去とを交互に描くことで示す→恋愛の先にある人間の幸福論を描く。こうした自らの気付きそのものを重ねていくことで、複雑な構造にしています。

──川村さんの言う幸福論とは何でしょうか。

 過去の小説でも一貫しているのですが、僕は小説で幸福論を描きたいと思っています。今回も恋愛というフィルターを通して、何をもって人間は幸せだと感じるのだろうかということに迫りました。

 これは、この小説に登場するフェデリコ・フェリーニ監督の映画『道』(1954年)にも通じる話です。この映画のヒロインは、ジェルソミーナという女の子。旅芸人のザンパノという男に、いろいろなものを奪われ引き剥がされ、悲惨な仕打ちを受けるのですが、文句も言わずに受け入れて、最後は亡くなってしまいます。

 僕には、あのキャラクターがファンタジーとは思えなかったし、世の中には必ず彼女のような人がいると思っています。ただ、本当に幸福だったのは、ザンパノよりもジェルソミーナの方ではないかと。ザンパノは、ラストシーンで、見捨てたジェルソミーナの死を知り、海辺で一人おえつするのです。

 こうした幸福論を描きたかったので、実はヒロインにもジェルソミーナを重ね合わせているところがあるのです。

 かつてエンターテインメントといえば、笑って泣けてハッピーエンドというのが主流で、一様の感情を与えればよしとされていました。ですが、今はもっと複雑であるべきだと思います。多様な感情が波のように重なり押し寄せてくる。そのような小説を目指しました。

 さらに今の時代、インターネットで検索すると簡単に答えが見つかります。ですが、小説を出すからには、検索しても答えが見つからない、自分の中の解決できない問題に光が当たるようにしたかったのです。読者の心の中、体の中にじわじわと入っていく、染み込んでいく物語を描き、「自分はこう思っていたのか」とか「こう考えていたのか」とか、何かに気付く機会にしてもらいたいと考えました。

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