こうの作品の一番の読者として
ひとつの読解例を示したかった

──原作は平成18年冬から21年冬にかけて連載され、昭和18年冬から21年冬の世界をほぼ同じ時間の流れで描いていたというすごい作品です。確かに単行本でまとめて読むのと、リアルタイムで読むのとでは違ったでしょうね。

かたぶち・すなお/アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中に宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本・演出助手を担当。『魔女の宅急便』では演出補を務めた。監督作に『名犬ラッシー』、『アリーテ姫』、『ACECOMBAT 04』、『ブラック・ラグーン』『マイマイ新子と千年の魔法』など  Photo by T.K.

 そうです、そうです。

──しかも、原作者のこうのさん自身、当時の資料をかなり読み込んで、史実に基づいて物語を描いている。原作がある作品をアニメ化する際には、どれだけそれを忠実に起こすかの一方で、自分なりに何かを足して新しい“色”を付けていく作業があると思うのですが、どのようなアプローチで臨もうと?

 こうの史代さんの元々の漫画自体が自分にとって大切なものだったので、自分が一番の読者になろうと思ったんですね。読者としての一つの読解例、読み解いた一つの例としてこの作品を映画にしてみようと考えました。

 こうのさんが描かれた意図が100%こちらのものになるとは思わないんですけど、でも、こうのさんが描かれたことで裏にまわっていることを、できるだけ自分のできる範囲で読み解いて、そこで得たものから映画を作りたいなと思ったんですね。

 原作者の方がいて、そこにすでに愛読者がいるような作品って、そもそも読者のほうが原作に想いを持っているわけですよね。それはないがしろにしたらいけないなと思うし、『この世界の片隅に』の場合は、自分がまず読者として存在しているわけだから、自分がこの本を読んで良いと感じたところをないがしろにしたくないなと思ったわけですよ。

──その意味では、あくまで原作に忠実に、ということですね。

 ただ、唯一、気になっていたのが、原作の巻末に小さく「間違っていたなら教えてください 今のうちに」と書かれていて、戦争中という自分たちには手が届かない時代を叙述する時には、すごく真摯な態度だと思ったんですよ。

 僕らもこの作品の前に作った『マイマイ新子と千年の魔法』でも、ひとつの時代と地域について資料をあたって映像化しようしていましたから、(こうのさんの意図が)すごくよくわかったんです。逆に言うならば、『マイマイ新子』の時には終わってからわかったことが結構あった。なので『この世界の片隅に』は、原作に述べられていることは多いんだけれども、さらにその先がわかったことはいくらかでも原作の上に付け加えていこうとは考えました。