2016年11月12日に全国公開されたアニメ映画『この世界の片隅に』が、口コミから動員数が増え続けるという異例のヒットを記録している。戦中戦後の広島を舞台に、広島市から呉市に嫁いだ主人公・北條すずと、夫・周作など普通の人々の暮らしを描いた作品だ。クラウドファンディングで製作費や海外進出のための資金調達を行なったことでも話題となった。監督の片渕須直氏に、製作の経緯や作品に懸けた思いを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 深澤 献)

『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”(上)Photo by Takeshi Kojima

──「この世界の片隅に」の原作は、広島出身の漫画家、こうの史代さんの同名のコミック(上中下・双葉社刊)です。まず、映画化の経緯を教えてください。原作を読んで、すぐに映画化したいと思ったのですか。

 あ、それはむしろ逆で、自分にとってこの漫画は、ものすごく大事なものだったんです。一生ずっとこの本を枕元に置いておきたいなと思ったんですね。ずーっと時間をかけて、この本の内容を読み取っていきたい。それを死ぬまでずーっとやり続けよう、と。

 変に映像化しようと思ったら、そこにあることを全部一度読み取ってしまわないといけなくなる。それがもったいなくって。

 ところが、他に映像化しようと思っていたものがうまくいかなくなった時があって、その時に企画プロデューサーの丸山正雄(現職はMAPPA代表取締役会長)から「他に何かないか?」と言われて、「まあ、ないわけではないのですが、心の中にある大事な作品としてはこれがあります」と、とりあえず出してみたんですね。

 そしたら、「これは駄目だろう」と。「こんな大事な作品は、もういろんなところが映像化権を手に入れようと躍起になっていて、我々はもう出遅れているに違いないよ」って言うんですよ。そう言われてみると、自分にとって本当に大事なものだったので、それが他人の手で映像にされるのが悔しくてですね、だったら自分が手を挙げてやろうという意見に変わったんです。

──そもそも原作は、「漫画アクション」(双葉社)に連載されていたわけですが、片渕さんは連載時からの読者ですか。

 単行本になってからです。連載の時に読めていたら、もっと違う印象だったかもしれないなというのがありますね。