春闘の時期がやってきた。かつてに比べ、格段にその注目度が落ちているとはいえ、いまほどその重要性が高まっているときはない。なぜなら、日本はデフレと賃下げの悪循環にはまり込んでいるからだ。日本総合研究所の山田久主席研究員は、その背後には、事業構造・産業構造の転換の遅れがあり、これこそがデフレの真因である。したがって、デフレ脱却へ向けて、産業構造の転換を実現する労働移動によって賃上げを目指すべきであると説く。
デフレと賃下げの悪循環
2011年春闘がスタートした。連合は「デフレからの脱却を図り」、「労働者への配分の歪みを是正し、個人消費を喚起、経済の活性化を図っていく」ことを目指し、賃金・手当など配分総額を1%を目安に引き上げるという方針を打ち出した。しかし、多くの労組が早々に基本給のアップを諦め、定昇維持確保に重点を置く方針を表明する動きがみられている。当然、経営サイドはグローバル競争のもとで賃上げの余裕はないというスタンスであり、還元できても賞与中心という考え方である。
これは2000年代半ばにみられた構図である。当時組合は賃上げ要求を抑え、経営サイドのボーナス中心の成果配分スタンスを受け入れた。経営サイドがボーナスでの還元を好むのは、業績悪化時に減らしやすいことに加え、基本給が上がらなければ、所定外給与のベースや退職金なども増えないからである。
非正規労働者の比率の高まりもあり、2000年代後半には、企業は史上最高益を記録したにもかかわらず、1人当たり雇用者報酬は緩やかにしか伸びなかった。結果として、労働分配率は適正水準を下回り、国内消費活動の低迷につながった(図表1)。