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再起動 リブート
【第8回】 2016年12月30日
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斉藤 徹

まかせてください。絶対につくってみせます【『再起動 リブート』試読版第6回】

波瀾万丈のベンチャー経営を描き尽くした真実の物語「再起動 リブート」。バブルに踊らされ、金融危機に翻弄され、資金繰り地獄を生き抜き、会社分割、事業譲渡、企業買収、追放、度重なる裁判、差し押さえ、自宅競売の危機を乗り越え、たどりついた境地とは何だったのか。
本連載ではいち早く話題のノンフィクション『再起動 リブート』の中身を、先読み版として公開いたします。


サーバー第一号機を納品──[1992年3月]

 墨田さんがふたたび僕たちのオフィスにやってきたのは、プロレス道場の開始から約一年がたった1992年3月のある晩だった。その夜、僕たちはお酒も飲まずに、ずいぶんと長いこと話し込んだ。日本IBM時代のこと、創業のこと、ダイヤルQ2ビジネスのこと、音声応答システムのこと……。明け方近くだっただろうか。墨田さんが本題を切り出した。

 「斉藤さん、フレックスファームで音声応答システムをつくれませんか?」

 「どんなサーバーをご希望でしょうか?」

 実はその時、僕と納富は購入済みのデータリンクの音声応答システムを分解して、ハードウェアやソフトウェアを調査し、自社開発するための要件をまとめていた。マシンはDOS/Vベースの工業用筐体で、そこに米国ダイアロジック社の音声応答ボードを装着する。さらに米国インテレシス社のミドルウェア――制御を行うオペレーティングシステム(OS)と、業務処理を行うアプリケーションの中間に入るソフトウェア――を組み込み、その簡易言語に基づいたプログラムを自社開発して稼働させる。製造原価はプログラム開発の人件費を含めても250万円程度。12回線システムで1000万円という販売価格の四分の一で製造できると推定していた。

 墨田さんの言葉は続く。

 「今のサーバー価格は、製造原価に対してあまりにも高いと感じています。いくら儲かる商売とはいえ、この価格だとビジネスを拡大するのに時間がかかってしまい、シェア争いに響いてしまうんです。僕はビジネスをもっと加速させたい」

 「なるほど。どのようなカタチでサーバーをご提供させていただくのがベストですか?」

 墨田さんはすでに構想を持っていた。僕の質問への回答は明快なものだった。

 「希望するのは、サーバーのトータルコストを下げ、さらにそれをレンタル方式で貸し出してもらうことです。たとえば、今1000万円程度が相場のサーバーを、番組コンテンツを組み込んだうえで、月額20万円でレンタルできないでしょうか?」

 「問題は部材の仕入れなどにかかる初期のお金をどうするかですね」

 まだ銀行との取引もわずかしかない。資金調達の手段が限られていたので、機器の仕入れやソフトウェア開発などの先行資金に解決策が必要だった。しかし、墨田さんはその点も抜かりなかった。

 「よくわかります。そこで提案なのですが、一台あたり100万円の保証金を差し入れることで支援させてもらえませんか?」

 「それは大変に助かります。お気遣いありがとうございます」

 墨田さんの言葉にも熱が入ってきた。

 「サーバーに入れる番組コンテンツは今、新しく着想しているものです。ある特別なアイデアが入っているんです。プッシュ入力されるたびに、ランダムに新しい音声内容に切り替わる機能を取り入れたいんです」

 「ひとつの音声に飽きたら、すぐに別の音声を聞けるわけですね。機能的には問題ありません。対応させていただきます」

 「それはよかった。この新番組がヒットしたら、毎月、一定量のサーバーを発注しますよ」

 墨田さんがコンサルティングしているクライアントは10社ほどあった。そこから定期発注いただけるということだ。フレックスファームにとって、それは実にチャーミングな提案だった。そもそも今までのサーバーは高すぎたのだ。僕たちのライトな体制であれば、コスト面の問題はきっとクリアできるはずだ。これはビジネスになる。

 だが、僕はそんな皮算用を超えて、墨田さんのありがたい申し出を意気に感じていた。創業間もない僕たちを信じて、資金繰りのために保証金まで差し入れようというのだ。信頼には信頼で応えてみせる。

 「まかせてください。絶対につくってみせます」

 僕のなかの猪武者が、考えるより先に答えを出していた。

 そして、依頼を受けてからわずか二ヵ月後の1992年5月、第一号機となる音声応答システムを完成させ、約束通り墨田さんのクライアントに納品した。フレックスファームを取り巻くすべての人間の知恵と労力を総動員し、さらに技術者を外部から募って全力投球した成果だった。

 筐体やボードといったハードウェア仕入れ先の選定、ミドルウェアの組み込み、プログラムの開発、音声の制作と組み込み、管理画面などに関するマニュアルの作成から実環境での徹底したテストまでを、二ヵ月という短期間にこなせたことは、今考えても奇跡に近い。昼夜を問わずに働いてくれた社員、そして協力してくれた外部の方々の努力の結晶だった。

 パソコンを大きく頑丈にしたような横置きのシステム本体は、見るからに堂々としていた。それを車に載せ、社員と二人で戸越にあるクライアントに納品しに行った。筐体に組み込まれた特殊ボードの先に12本の電話回線をつなぐ。設置が完了したら、実際に電話機から電話をかけて動作の確認だ。

 「社長、大丈夫です。ちゃーんと動いてます!」

 「よっしゃー、やったなあ。めっちゃ大変だったもんな。ほんとにご苦労様でした」

 それは、フレックスファームが一番組提供業者からサーバーシステムを売るメーカーに生まれ変わった瞬間だった。

 納品は無事に完了した。あとはクライアントが儲かって、墨田さんが笑ってくれれば、もう何も言うことはない。緊張の連続から解放され、行きつけのちゃんこ料理屋でみんなとどんちゃん騒ぎを繰り広げながら、僕はつかの間の幸福を感じていた。(つづく)

(第7回は1月2日公開予定です)

斉藤 徹(さいとう・とおる)
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表 1961年、川崎生まれ。駒場東邦中学校・高等学校、慶應義塾大学理工学部を経て、1985年、日本IBM株式会社入社。29歳で日本IBMを退職。1991年2月、株式会社フレックスファームを創業し、ベンチャーの世界に飛び込む。ダイヤルQ2ブームに乗り、瞬く間に月商1億円を突破したが、バブルとアダルト系事業に支えられた一時的な成功にすぎなかった。絶え間なく押し寄せる難局、地をはうような起業のリアリティをくぐり抜けた先には、ドットコムバブルの大波があった。国内外の投資家からテクノロジーベンチャーとして注目を集めたフレックスファームは、未上場ながらも時価総額100億円のベンチャーに。だが、バブル崩壊を機に銀行の貸しはがしに遭い、またも奈落の底へ突き落とされる。40歳にして創業した会社を追われ、3億円の借金を背負う。銀行に訴えられ、自宅まで競売にかけられるが、諦めずに粘り強く闘い続けて、再び復活を遂げる。2005年7月、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルシフトの提唱者として「透明な時代におけるビジネス改革」を企業に提言している。著書は『BE ソーシャル 社員と顧客に愛される 5つのシフト』『ソーシャルシフト─ これからの企業にとって一番大切なこと』(ともに日本経済新聞出版社)、『新ソーシャルメディア完全読本』(アスキー新書)、『ソーシャルシフト新しい顧客戦略の教科書』(共著、KADOKAWA)など多数

 

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