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再起動 リブート
【第4回】 2016年12月21日
著者・コラム紹介バックナンバー
斉藤 徹

まじでやってみるか。俺たちだけで。金も集めて、夜と週末に集まって【『再起動 リブート』試読版第2回】

波瀾万丈のベンチャー経営を描き尽くした真実の物語「再起動 リブート」。バブルに踊らされ、金融危機に翻弄され、資金繰り地獄を生き抜き、会社分割、事業譲渡、企業買収、追放、度重なる裁判、差し押さえ、自宅競売の危機を乗り越え、たどりついた境地とは何だったのか。
本連載ではいち早く話題のノンフィクション『再起動 リブート』の中身を、先読み版として公開いたします。


蓼科で生まれた夢──[1990年10月]

 「だからさあ、とにかくダイヤルQ2ってのはすごいんだって」

 利田敏のあげた怪気炎が、こたつを囲む僕たちの心を鷲づかみにした。

 時は1990年の秋、長野県の小淵沢インターから30分ほど奥まったところにある蓼科の宿で、僕たち六人組はいつものように酔いどれながら、降ってわいた儲け話に熱中していた。

 話のネタを持ち込んで興奮しているのは、中学一年からつき合いのある悪友の利田だ。彼の力説によると、NTTが1989年7月にスタートさせたダイヤルQ2という有料音声情報サービスが大ヒットの兆しを見せているらしい。利田はテレビ朝日でニュース番組のディレクターをしていることもあり、この手のマニアックな情報には異様に鼻がきく。

 実際、ダイヤルQ2は、コンテンツビジネスの先駆けともいえる画期的なサービスだった。

 たとえば、あなたが「テレフォンお悩み相談」を6秒あたり10円で提供するとしよう。利用者があなたのダイヤルQ2番組に電話をかけ、10分間悩みを相談すると、1000円の情報料が発生する。それをNTTが回収代行し、あなたの銀行口座に手数料を差し引いた910円が支払われる。一番面倒な情報料の回収をNTTが代わりにやってくれるのだ。

 サービスを提供するにはNTTへの申請が必要となる。審査に合格すると、0990ではじまる10ケタの電話番号がもらえる。電話で応対するのは人だけではない。プログラムにしたがって自動で応対する「音声応答システム」を設置しておけば、機械が24時間休まずに情報を流してくれる。利用者が聴きたい音声コンテンツをサーバーに置いておくだけで、ものすごいお金が転がり込んでくるかもしれない。ごく普通のサラリーマンだった僕たちにとって、利田が仕入れてきた話は刺激的すぎた。

 「ダイヤルQ2がはじまってまだ一年しかたってないのに、もう月に2000万円も稼いでいるヤツがいるらしいぜ。機械を買ったり、番組を申請したりする必要があるけど、今なら早いもの勝ちだって、絶対」

 長く続いたバブル景気を追い風に、人々の気持ちは大いに浮かれていた。ジャパン・アズ・ナンバーワンと持ち上げられ、日本が世界経済をリードした黄金期だ。日経平均株価は4万円に近づき、不動産も際限なく高騰してゆく。東京23区の地価でアメリカ全土を購入できるといわれ、ジャパンマネーが海外不動産を買い漁った。そんな熱気を帯びた時代においても、ダイヤルQ2の投資話はとりわけ異彩を放っていた。

 「アイデアひとつで商売をはじめられるのか。それってすごいことだよな」
 当時は、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など、マスメディアの全盛期でもあった。今となっては想像もつかないが、インターネットもメールも、携帯電話さえもなかったのだ。個人が気軽に情報発信することなど想像もできなかった。ところが、ダイヤルQ2の登場で、知恵と才覚だけで勝負できるフィールドが突然目の前にあらわれたのだ。

 僕たち六人の目は爛々と輝き、話題は自然と次のテーマに移っていった。

 「電話の音声だけで伝えられる番組か。どんなコンテンツが受けるかな」

 僕の問いかけに、利田は迷わず即答した。

 「ヒットしているのは“ツーショット”や“伝言ダイヤル”とかの出会い系サービスだな」

 「そうか、出会い系か……」

 メディアの成長は性欲がリードする。そんな法則通りの現象が起きていた。だが、僕たちはアダルト路線で儲けるつもりはなかった。まだ青臭かった僕たちは、もっと女の子にモテるような、響きのよいビジネスに仕立てたかったのだ。

 利田と小学校の頃からマブダチで、父親が経営する司法書士事務所に勤める上野哲が身を乗り出してきた。

 「サーフィンとかで、その場に行かないとわからない波の情報とかは絶対知りたいよな」

 リコー情報システムに勤務するコンピュータ技術者、納富活成の鼻息も荒かった。

 「今はブームなんだから、単純なクイズやゲームみたいなものもアリじゃないか」

 読売広告社で営業を担当している天羽英悟の業界っぽい一言も加わった。

 「やっぱ、芸能人は強いよね。ファンは彼らの生の声を毎日聞きたいはずだよ」

 利田に上野、納富、天羽。ヤツらは、駒場東邦で中学・高校の六年間をともに過ごした悪友だ。僕たちはクラブ活動に専念していなかったので、放課後や休日はいつもつるんで遊んでいた。渋谷駅や中目黒駅まで歩いて帰り、ゲームセンターでインベーダーに熱中し、奥沢図書館でレコードを借り、それぞれの自宅に集まっては大騒ぎをした。秋になると女子高の文化祭めぐりだ。そんな旧友たちとのたわいもない雑談が、次第にビジネス・アイデアとして熱を帯びてきた。

 「“売りたし買いたし”みたいな個人売買って、案外、流行るかもね」
 最後に発言したのは、日立製作所に勤務する福田浩至だ。山口の徳山出身で、慶應義塾大学一年の時に同じクラスで知り合った。「東京の人には気をつけなさい」というお母さんの言いつけを守る真面目な男だ。

 大学時代、垢抜けないメガネ男子だった福田が、ある日突然、鼻の下にヒゲをたくわえはじめた。話を聞くと、先輩にキャバレーに連れていかれて、隣に座ったお姉さんに「あなた、ヒゲが似合いそうね」と言われて、翌日から生やすことにしたのだという。大学のクラスでもすぐに悪ガキ仲間を形成していた僕たちは、授業中に福田のチョビヒゲを指さして「トド」と呼んでからかったが、福田には聞こえなかったようで、うれしそうにこちらを見て笑っていた。
敵をつくらないその無邪気な笑顔にやられたのか、僕たちはすぐに友だちになり、福田の下宿は格好のたまり場となった。

 「そういえば、ビジネスの話なんか、ろくにしたこともなかったよな、俺たち」

 「だよな。でも、こういうのもたまにはいいな」

 その頃、僕の心のなかには理想郷があった。当時大人気だった青春テレビドラマ『俺たちの旅」でカースケが友人たちとはじめた「なんとかする会社」だ。大学を卒業して会社員になるも、純粋すぎて理不尽な社会慣習に馴染めないカースケ、オメダ、グズ六。それに同じ下宿に住む東大浪人生のワカメの四人が、自分らしい生き方を求めて立ち上げた「なんとかする会社」は、いつしか僕の憧れになっていた。

 気の合う仲間たちと、上下関係などなく、面白おかしく仕事をし、毎日を楽しんで暮らす。

 大人たちからその日暮らしと揶揄されながらも、一日一日を一生懸命生きていく彼らの姿に、僕は心の深いところで共感していた。

 一流の大学を卒業し、一流の大企業に入社する。組織のひずみに耐えながら、一生かけて添い遂げる。そんな僕たちの常識とはひと味違う生き方がそこにあった。今はバラバラに働く立場だが、いつの日か、そう50歳か60歳か、そうなるまでにみんなでどこかの森に別荘を買い、好きなだけ酒を飲んで、屋上でカラオケを歌いまくって、毎日を面白おかしく生きていこう。そんなロマンが、終身雇用の時代に生きる僕たちにとって、ささやかな抵抗だったのかも
しれない。

 「まじでやってみるか。俺たちだけで。金も集めて、夜と週末に集まって」

 「うーし、気合い入ってきたぞ。じゃあ、企画会議を続けようぜ」

 平凡な人生をおくっていた僕たちの目の前に、突然、わきたつような非日常への招待切符がつきつけられた。僕たちサラリーマンの秘めごとは、そんなとある一夜の熱狂からはじまった。

(つづく)

(第3回は12月23日公開予定です)

斉藤徹(さいとう・とおる)
株式会社ループス・コミュニケーションズ代表 1961年、川崎生まれ。駒場東邦中学校・高等学校、慶應義塾大学理工学部を経て、1985年、日本IBM株式会社入社。29歳で日本IBMを退職。1991年2月、株式会社フレックスファームを創業し、ベンチャーの世界に飛び込む。ダイヤルQ2ブームに乗り、瞬く間に月商1億円を突破したが、バブルとアダルト系事業に支えられた一時的な成功にすぎなかった。絶え間なく押し寄せる難局、地をはうような起業のリアリティをくぐり抜けた先には、ドットコムバブルの大波があった。国内外の投資家からテクノロジーベンチャーとして注目を集めたフレックスファームは、未上場ながらも時価総額100億円のベンチャーに。だが、バブル崩壊を機に銀行の貸しはがしに遭い、またも奈落の底へ突き落とされる。40歳にして創業した会社を追われ、3億円の借金を背負う。銀行に訴えられ、自宅まで競売にかけられるが、諦めずに粘り強く闘い続けて、再び復活を遂げる。2005年7月、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルシフトの提唱者として「透明な時代におけるビジネス改革」を企業に提言している。著書は『BE ソーシャル 社員と顧客に愛される 5つのシフト』『ソーシャルシフト─ これからの企業にとって一番大切なこと』(ともに日本経済新聞出版社)、『新ソーシャルメディア完全読本』(アスキー新書)、『ソーシャルシフト新しい顧客戦略の教科書』(共著、KADOKAWA)など多数

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