なぜ、百貨店はネットと店舗を融合したオムニチャネル化が進まないのか――。「オムニチャネル化は重要な戦略の一つ」と、百貨店経営者の発言は異口同音だ。しかし、その実態は「オムニ化に着手した」、あるいは「軌道に乗ってきた」という話をあまり聞かない。合理的なオムニチャネル化が進まない理由は、百貨店の古くて古い前時代の遺物となったような商慣習があった。(流通ジャーナリスト 森山真二)
ネットとの融合が進まない
百貨店の商慣行
米アマゾン・ドット・コムが無人レジの店舗を開発し、米ウォルマート・ストアーズがダークストア(来店できない倉庫型の品ぞろえセンター)によるネットスーパーのピックアップ方式を順調に伸ばしているこの時世に、日本の流通は百貨店を始めとして、遅々として近代化が進んでいない。このままいくと、アマゾンがあれよあれよという間に1兆円の売上高を獲得したように、ネットに長けた流通外資に市場を席巻されてしまう懸念も出てきた。
日本のオムニ化で、懸念の最たる場所が百貨店だ。もちろん、「晴れの日」を演出するという流通での役割からすると、簡単にデジタル化と相容れない世界なのかもしれない。そうだとしても店舗の機能や役割を変革して、オムニ化に舵を切ることはできるはずだ。
しかし、そこには障害となる商慣習が横たわっている。
グループでオムニ化に取り組んでいるセブン&アイホールディングスは別にして、百貨店のなかでもオムニ化に熱心な高島屋は、昨年の2015年2月に「オムニチャネル推進室」を設けて、取り組み始めている。木本茂社長による肝いりのプロジェクトだ。
このプロジェクトも約2年が経過しようとしているが、ネットの売上高が前期は2割程度増加し、120億円程度。伸び率は大きいが、高島屋全体の売上高である9250億円(17年2月期見込)の構成比では1%強ということでしかない。
先駆的に取り組んでいる高島屋ですらこういう状態だから、他百貨店は推して知るべしだ。