リーマンショック後の業績悪化で株主資本比率が1ケタに下がるなど危機に直面した東芝。その後行った選択と集中により、今期の業績は回復基調だ。だが、新たな課題も浮かび上がっている。

 半導体と原子力発電事業を2本柱として掲げる東芝にとって、強固な財務体質を持つことは最重要事項だった。なぜならこの二つの事業には特有のリスクが付きまとうからだ。

 半導体事業は価格と需要の変動が激しい。リーマンショック後の2009年3月期、需要の急減退に伴って70%も価格が下落し、工場稼働率が30%台に落ち込んだことは記憶に新しい。その期だけで、半導体事業は2799億円もの巨額赤字に陥った。

 原発事業は2000年以降新興国を中心にエネルギー需要が高まり、世界中で建設ラッシュだ。しかし、新興国でのプロジェクトには工期の遅れが付き物。現地労働者の確保や納期の遵守などの進行管理は難しい。

 たとえば原子力大手の仏アレバはフィンランドでのプロジェクトで工期が3年以上も遅れた。総工費は32億ユーロから58億ユーロへと、2倍近くにふくれ上がる見通しだ。

 そんななかで東芝は、09年3月期に3436億円の最終赤字に陥り、株主資本比率は8.2%まで下がってしまった(図(1))。02年のITバブル崩壊後の景気減速時でさえ10%は維持していたのだから、最悪の事態だったといえる。

 さらに、これを機に09年4月までに、ムーディーズが格付けをA3からBaa2に2段階引き下げた。「見通しもさらに格付けを引き下げる可能性があるネガティブであった」(廣瀬和貞・ムーディーズ ジャパンヴァイスプレジデント)。

 半導体事業は毎年2000億~2500億円もの設備投資が必要で、原発事業も大型プロジェクトを進めるうえで資金が必要だ。資金調達に影響を及ぼす格付けの引き下げは東芝を窮地に追い込んだ。

 09年6月までに約5000億円の増資になんとか成功して、株主資本比率は13%台まで回復。だが危機を脱したものの、決して安心できる状況ではなかった。

 そこで断行されたのが、さらなる不採算事業からの撤退である。東芝モバイルディスプレイの子会社でパソコン向け液晶パネル製造会社を台湾大手液晶パネルメーカーのAUOに、また携帯電話事業を富士通との合弁会社に譲渡した。

 さらに半導体事業で課題だったシステムLSI部門にも手を入れた。スケールメリットが勝敗を決する半導体事業において、LSIはシェアが低く収益確保が難しかったからだ(図(2))。長崎工場の製造ラインをソニーに売却し、回路線幅40ナノメートル以降の最先端品の製造は韓サムスン電子と米グローバルファウンドリーズへの委託を決めた。今後、大規模な投資が不要になるほか、稼働率変動による巨額損失のリスクがなくなる。