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社会貢献でメシを食う。NEXT 竹井善昭

「初詣ベビーカー論争」は何が間違っているのか?

竹井善昭 [ソーシャルビジネス・プランナー&CSRコンサルタント/株式会社ソーシャルプランニング代表]
【第173回】 2017年1月10日
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 新年早々、「ベビーカー論争」である。ご存じの方も多いかと思うが、これは都内のあるお寺が初詣でのベビーカー利用を自粛するよう「お願い」したことに端を発する。このお願いを書いた看板の写真がツイッターで投稿されたことで「お寺に対する批判」が噴出したが、その一方で、混雑する初詣にベビーカーで来ること自体が問題だという「母親批判」も噴出。少子化を助長するとか、女性の社会進出を阻害するといった意見が相次ぎ、ネットで大論争になった。しかしこの件はたんに少子化や女性活躍推進などの問題だけでなく、もっと広範な、いまの日本を覆っている社会問題に絡んでいる。だからこそ大論争になったのだが、その問題とは、「差別」と「マナー」の問題だ。

初詣でのベビーカー自粛は
差別になるのか?

 昨今、ネット社会がもたらした息苦しさや窮屈さのひとつが、行き過ぎた「差別批判」「マナー批判」にあることは、多くの人が指摘するところだと思う。世界中で富の格差を拡大させる資本主義や、過労死を生む長時間労働に対する批判はあってしかるべきだが、その批判も行き過ぎると、経済のダイナミズムを殺ぐことがある。実際、18世紀半ば、資本家による労働の搾取に対する「批判」から生まれた共産党宣言も、それが行き過ぎて巨大な官僚主義を生み出し、最終的には、一時はアメリカと世界を二分するほどの国力を誇っていたソ連の崩壊にまでつながる。「差別批判」や「マナー批判」も同様に、行き過ぎると社会はダイナミズムを失い、やがて崩壊するのだ。

 今回のベビーカー論争においても、批判が相次いでいる。当初は、ベビーカー自粛をお願いしたお寺に対しての批判だ。「ベビーカーを差別することは、車椅子の障害者を差別することと同じだ」という論理だ。しかしお寺が、初詣でのベビーカー自粛をお願いすることは差別になるのだろうか。あるいは「お願い」ではなく、「禁止」していたとしたら、これは差別になるのだろうか。答えは「どちらとも言えない」である。

 そもそも差別とは「認識」の問題であり、それが差別になるかどうかは、時代や社会に拠る。昔のアメリカでは、黒人を奴隷として扱うことを誰も差別とは考えていなかった(だから、奴隷制が維持できていた)。リンカーンが奴隷解放をした後も、黒人差別は続き、1950年代までアフリカ系アメリカ人には公民権もなかった。それが、キング牧師やマルコムXのような人たちによる「啓蒙」のおかげで、アフリカ系アメリカ人の人たちは権利主張するようになり、白人たちの認識も変わり、社会も変わり、やがて大統領を生み出すわけだが、つまり誰かが啓蒙しなければ、差別されている当事者でさえ、それを差別だと「認識」できず、差別は維持される。

 たとえば、黒人差別を撤廃させるには、当事者である黒人自身だけでなく、差別する側の人間(白人)の多くが「バスの白人専用のシートに黒人が座っただけで殺される」といった事態は間違っていると「認識」する必要があるのだ。これは、女性差別や障害者差別、性的マイノリティ差別など、あらゆる差別問題に共通するメカニズムである。

 ただし、何が撤廃すべき差別なのかどうかは、公共性に拠る。バスは明らかに公共の交通機関なので、肌の色で座る場所を分けることは差別になる。そして、公共性というものは人権と深く結びついている。企業が女性だというだけで採用しない、採用試験さえ受けさせないというのは、働く権利という人権を阻害しているから女性差別にあたる。

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竹井善昭 [ソーシャルビジネス・プランナー&CSRコンサルタント/株式会社ソーシャルプランニング代表]

マーケティング・コンサルタントとしてクルマ、家電、パソコン、飲料、食品などあらゆる業種のトップ企業にて商品開発、業態開発を行なう。近年は領域を社会貢献に特化し、CSRコンサルタント、社会貢献ビジネスの開発プランナーとして活動。多くの企業にてCSR戦略、NGOのコミュニケーション戦略の構築を行なう。「日本を社会貢献でメシが食える社会にする」ことがミッションに、全国各地で講演活動を行なう。ソーシャル系ビジネスコンテストや各種財団の助成金などの審査員多数。また、「日本の女子力が世界を変える」をテーマに、世界の女性、少女をエンパワーメントするための団体「ガール・パワー(一般社団法人日本女子力推進事業団)」を、夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美氏、日本キッズコーチング協会理事長の竹内エリカ氏らと共に設立。著書に『社会貢献でメシを食う。』『ジャパニーズスピリッツの開国力』(いずれもダイヤモンド社)がある。

株式会社ソーシャルプランニング
☆竹井氏ブログ 社会貢献でメシを食う〝REAL(リアル)〟
☆Twitterアカウント:takeiyoshiaki


社会貢献でメシを食う。NEXT 竹井善昭

CSRやコーズマーケティングをはじめ、「社会貢献」というテーマがポピュラーとなったいま、「社会貢献のセカンドウェーブ」が来ている。新たなサービスやプロジェクトのみならず、新たな主役たちも登場し始めた。当連載では話題の事例を取り上げながら、社会貢献的視点で世の中のトレンドを紹介していく。
*当連載は、人気連載『社会貢献を買う人たち』のリニューアル版として、2014年1月より連載名を変更しました。

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