今回は、有名学習塾で起きた事件を基に、企業とそれを取り巻く社会のホンネとタテマエを炙り出したい。事件の「主役」は、地域で知られる40代の暴力団員。一説には、「刑務所から出てきて日が浅い」と囁かれる。そんな組員が、あることをきっかけに塾に怒鳴り込んだ。塾や親たちが怯える一方で、地域の商店経営者たちからは、その行為が絶賛された。なぜ、このような奇妙なことが地域全体で起きたのか。その謎に迫る。


「はげ~」「坊主~」
暴力団員をからかう塾生たち

「おれをからかった子どもを出せ!」と塾に怒鳴り込んだ暴力団員は「子どもがいる教室に入らせろ」と脅し、室長に「あの3人の子の親を呼べ」と命じた

 午後8時過ぎ、JR中央線某駅の北口――。

 立ち食いそばのチェーン店がある。その前を通り過ぎ、30メートルほど歩くと、銀行の支店が見える。その横の道から、小学生たち数十人が小走りで出てくる。駅に向かうようだ。

 名門学習塾に通う子どもたちだ。塾の職員と思える、背広を着た男性が2人傍らに立つ。男性たちは、1年ほど前からここで子どもたちを見送るようになった。ほぼ1年前、この塾を舞台に「事件」が起きたからだ。

 その日の午後8時頃、地域を仕切る暴力団員3人が塾の横の道を歩いていた。教室を後にして、駅に向かう数人の男の子が通りすぎるときに、この暴力団員をからかった。「はげ~」「坊主~」「毛がはえない病気~」という具合だ。

 数人のうちの1人である40代の暴力団員は、どのような理由なのかは不明だが、髪の毛が1本もない。子どもたちの言葉にはじめは苦笑いをしていた。しかし、数人から10人ほどに子どもが増えて、一段と大きな声でからかい始めた。

 「はげ~」「坊主~」「毛がはえない病気~」――。

 そのとき周囲には、通りすがりの会社員や商店街の店主10人ほどがいた。暴力団員はつい最近まで、本人いわく「7~8年、刑務所にいた」人物である。地域を仕切るだけに、商店街の店主らとは一通り面識があるという。とんかつ屋の店主は、15年以上前から知り合いだ。

「その刑期ならば、殺人なのかもしれない。髪の毛が1本もなく、ドラマに出てくるような暴力団員。うちの店にも若い組員を連れて、時々来る」

 暴力団員は翌日、学習塾に行った。そして、「責任者を出せ!」とすごんだ。塾の室長は怯え、おののいたようだ。暴力団員は、昨日の出来事を説明した。そのときは冷静だったという。