関西出身者らしく、笑いを取りながら、過去との矛盾を水に流してのけたKDDIの田中社長
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 いとも、あっさりと“空気”を一変させたものである。

 過去3年ほど、情報・通信業界内で続けられてきた「NTT東西が持つ光回線の貸し出し料金」をめぐる攻防戦において、ちょっとした“事件”が起きた。

 先の2月22日、各社のトップが一堂に会して行われた審議会の「事業者ヒアリング」の席上で、KDDIの田中孝司社長は、ある委員からの「3年前と比べると、意見が変わったという印象だ」という問いかけに対して、「おっしゃるとおり変わっている」と笑顔で返し、場内をどっとわかせた。

 NTT東西以外の事業者の多くは、なんらかのかたちでNTTが持つ光回線を借りて、自社の顧客にサービスを提供しており、物理的な光回線はNTTに依存する。

 これまでのKDDIは、「NTT東西が所有する光回線を8回線単位ではなく、1回線単位で貸してほしい」という主張をしてきた。NTTは、光回線を敷設してきた経験から8回線単位での貸し出しが最も効率がよいとし、その方法にこだわってきたのだが、他の事業者はできるだけ安く借りて自社の顧客にサービスを提供したいと考える。この方針は、KDDIとソフトバンクに共通のもので、2社は“NTT対抗”という意味では、事実上の共闘関係にあった。

 今回、KDDIが、従来の方針を撤回した理由は、じつに単純である。「実際に8本単位で借りても、やってみたらうまくいった。採算も合う」(田中社長)。実際、札幌市内では、NTTの局舎に専用の装置を置かせてもらい、NTTの光回線を借りて、NTTの「フレッツ光」よりも速度が出る「ギガ得」という新サービスを展開して約40%のシェアを奪っている。

 そのような実例が出てきたことで、“流れ”が変わってきた。これまで競合事業者は、ソフトバンクを筆頭にして「8本貸しでは採算が合わない」「光回線の稼働率を上げるために安くせよ」という主張を繰り返してきたが、現行ルール(8本貸し)で可能だとKDDIが実証したので、ロジック自体が成り立たなくなってくる。しかも、総務省が打ち出す「設備競争とサービス競争のバランスを図りながら、事業者間競争を促進する」という方針にも合致するので、審議会の関係者もKDDIの主張には耳を傾けるようになる。

 また、KDDIとしては、なかなか結論が出ない「8本か1本か」という固定通信の世界に限定された制度論争に引っ張られるのではなく、自らリスクを取って、すでに主戦場となった無線通信(携帯電話)と、固定通信を組み合わせてNTTと設備競争をする道に踏み込んだのである。

 KDDIは、これまで電力会社系通信事業者やケーブルテレビ会社などを買収し、自前の設備を少しずつ増やしてきた。NTTの光回線を借りる一方で、携帯電話のバックボーンになる光回線を増強している。競争政策上の観点から、NTTグループは固定通信と無線通信を1社内でまとめて提供できないが、KDDIは独自のサービスを展開できる。

 NTTの光回線貸し出し問題は、今後も続くが、実際に設備競争をしているKDDIの発言は重みや説得力が増すので、料金をめぐる攻防ではキャスティングボートを握ることになる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

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