東日本大震災の被害は、3月16日に入った時点で死者3373人、行方不明者7558人となり、死者・不明者を合わせて1万人を越えるという、戦前に発生した関東大震災以来の大惨事となった。今回の震災は、いまだ不況から脱し切れていない日本経済に、どれほどの影響を与えるのだろうか。白川浩道・クレディ・スイス証券チーフエコノミストに聞いた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

白川浩道・クレディ・スイス証券チーフエコノミスト

――東日本大震災の被害は、3月16日に入った時点で死者・不明者を合わせて1万人を越えるという、戦前に発生した関東大震災以来の大惨事となった。今回の震災による直接的な被害額をどう見ているか。阪神淡路大震災より被害額は大きくなるだろうか。

 まずは、被災地の皆様に心よりお見舞いを申し上げたい。緊急事態であり、不確実性が高いものの、今回の被害に対するとりあえずの見通しを述べさせていただく。

 被害がどれくらいに上るかわからない状況の中では、不安ばかりが募りがちだ。しかし個人や企業は、今回の震災が日本経済に与える現実的な影響を冷静に分析し、一刻も早い復興に向けて、前向きに行動していくべきだろう。確かに、東日本大震災の影響は甚大であり、阪神淡路大震災の被害を上回るのではないかという声も聞かれるが、私はその影響を、世間で言われているよりは限定的と見ている。

 今回の震災では、現時点で避難者数が55万人程度に達したとの報道があり、原発周辺住民の避難者を除いても32万人程度に上っている可能性がある。これは、阪神淡路大震災におけるピーク時の避難者数にほぼ並ぶ。

 そのため、全壊・半壊の合計で見た住宅棟数は、被災地域の人口密度の低さを勘案しても、15~20万棟に達している可能性がある(阪神淡路大震災は24万棟程度)。

 ただし、今回被災規模が大きかった東北3県と茨城県の合計県民所得は、30兆円強とGDPの6%強であり、阪神淡路大震災の被災地のGDPが約70兆円だったことと比べれば、直接的な経済損失はそれより小さいと見ている。

 被災地には、大規模商業施設やオフィスが少なく、高速道路などの道路被害も相対的に小さい。仙台エリアを中心とする港湾や空港などの損害を勘案しても、直接的な経済損失の合計は、阪神淡路大震災の10~13兆円を下回る7~8兆円ではないかと推計する。