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佐高 信の「一人一話」

黴菌恐怖症の新大統領ドナルド・トランプ

佐高 信 [評論家]
【第63回】 2017年1月30日
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 やはりトランプは引いてはいけないジョーカーだった。

 メキシコへの工場建設をめぐって、GMやトヨタを名指しで批判するトランプに右往左往する企業のトップを見ながら、私は1人の傑出した経営者を思い出していた。倉敷レイヨン(現クラレ)の社長だった大原総一郎である。背景や事情が違うとはいえ、大原には次のような反骨精神があった。

 1963年ごろ、まだ国交を回復していなかった中国向けのビニロン・プラント輸出で、大原は多くの反対や右翼のいやがらせを受けた。

 しかし、彼は自分の考えを曲げず、1年半にわたる粘り強い説得工作によって、時の首相の池田勇人や、ワンマン吉田茂、それに実力者の佐藤栄作などを説き伏せ、このプラント輸出を認可させる。

 共産主義の中国に対する警戒感もあって、アメリカや台湾の反対は猛烈だった。

 この時の思いを、大原はこう述べている。

 「私は会社に対する責任と立場を重くすべきだと思うが、同時に私の理想にも忠実でありたい。私は幾何(いくばく)かの利益のために私の思想を売る意思は持っていない」

 これは、対中プラント輸出を思いとどまれば、アメリカや台湾から商談がくる。その方がずっといいではないかと、彼を翻意させようとする財界人に対する答でもあった。

 大原の根底には、中国に対する戦争責任があったのである。

社会的責任という観念の欠如

 企業の社会性を考えていた大原とは対照的に、トランプには社会的責任といった観念はまったくと言っていいほど、ない。

 『トランプ自伝』(相原真理子訳、ちくま文庫)で、こう言っている。

 「差押え不動産を購入するため、外部投資家の資金による基金を設立することは、結局やめにした。自分がリスクを負うのはかまわないが、大勢の人の資金に対して責任をもつのは気が進まない。投資家の中には必ず友人も何人か含まれることになるので、なおさらだ。同じ理由で、自分の会社を上場しようと考えたことは一度もない。自分に対してだけ責任をとればいいという立場にいたほうが、意思決定をするのがずっと楽だ」

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佐高 信 [評論家]

さたか・まこと 1945年山形県酒田市生まれ。評論家、『週刊金曜日』編集委員。高校教師、経済雑誌の編集者を経て評論家に。「社畜」という言葉で日本の企業社会の病理を露わにし、会社・経営者批評で一つの分野を築く。経済評論にとどまらず、憲法、教育など現代日本のについて辛口の評論活動を続ける。著書に『保守の知恵』(岸井成格さんとの共著、毎日新聞社)、『飲水思源 メディアの仕掛人、徳間康快』(金曜日)など。


佐高 信の「一人一話」

歴史は人によってつくられる。ときに説明しがたい人間模様、ふとした人の心の機微が歴史を変える。経済、政治、法律、教育、文化と幅広い分野にわたって、評論活動を続けてきた佐高 信氏が、その交遊録から、歴史を彩った人々の知られざる一面に光をあてる。

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