>>(上)より続く
ホットなタイミングだった
南京事件
まず、ひとつは中国ネットユーザーたちが、「Kat&Sid」が投稿をするおよそ2ヵ月前、海外企業を相手どって大きな「戦果」を得た、という自信だ。
アメリカの高級百貨店ノードストロームの直営店で、「ハピネス」という商品名のTシャツが売られていた。そこには、中国映画「南京!南京!」から切り出したと思しき、旧日本軍の軍人が中国の一般市民を殺害している様子がプリントされ、横にはベンチに座る白人女性の姿も加えられ、「なぜ無関心のままなのか?」というメッセージが添えられていた。
日本人からもいろいろ言いたいことがあるだろうが、現地の中国系住民がこれに猛烈な抗議をして、中国のネットユーザーはSNSでノードストロームを攻撃。「反戦や反無関心を訴えたかった」というデザイナー側の釈明も虚しく、謝罪と商品取り下げとなった。
この「戦果」が、南京事件に関する「誤った認識」を糾していくと意気込む中国ネットユーザーたちを大いに勢いづかせたというのは容易に想像できよう。
そして2つ目が、「Kat&Sid」が南京ネタをアップしたのが「節目」だということである。
日本人にはあまり知られていないが、実は中国では12月13日が南京事件の国家追悼日とされている。「南京大虐殺記念館」で国家追悼式が開かれるのはもちろんのこと、全国の小中学校では、日本兵たちに無残に殺された30万人を悼み、30本のロウソクを灯したり、いかに日本が憎いかというスピーチコンクールが開かれる。つまり、12月は中国が「日本への憎しみ」に染まるタイミングなのだ。
さらに言えば、17年は南京事件から80年という節目の年ということで、安倍首相に「南京大虐殺記念館」で、30万人の被害者を前に頭を垂れさせる、と意気込んでいる中国人は少なくない。中国からすれば、アメリカの大統領が広島に訪れて献花したのをそんなに喜んでいるのなら、お前らも南京にきて詫びろ、というロジックなのだ。
そんなタイミングだったら、アパ会長の本が炎上するのもしょうがないかと思うかもしれないが、実はこの2つだけなら、今のような大騒ぎになったかは疑問である。
それが3つ目の要素である。告発映像を投稿した「Kat」がアメリカ人女性ということだ。