AIの台頭や一層のグローバル化、就活の地殻変動などの影響で到来する「仕事が消滅する時代」。そんな時代に向けて必要な「子育て」とは?「高校生に語りかける」形式が読みやすいと保護者からも話題になっている教育改革実践家・藤原和博氏の最新刊『10年後、君に仕事はあるのか?』の内容から、子育てにおける「遊び」の重要性を解説する連載第4回。

「10歳までにどれだけ遊んだか」でアタマの柔らかさが決まる

コミュニケーション力のないエリート

 正解のない問題に対してアタマを柔らかくして縦横無尽に考える作法は「遊び」のなかで育まれます。

 10歳までにどれほど遊んだか、子ども時代に想定外のことにどれほど対処したかが大事なんです。

 よく対談やシンポジウムでご一緒する「花まる学習会」の高濱正伸代表とも完全に意見が一致するのですが、遊んでない人材は伸びない。

 子どもの頃に遊んでいない人は発想が豊かじゃないから「伸び代」がないんです。

 だから、「花まる学習会」では四季の休みごとに野外体験を企画し、そこでの学びを重視します。とりわけ夏休みには毎年1万人以上の子を自然のなかに連れて行き、大人の監視下ではありますが、わざと危険な遊び(たとえば、岩の上から川に飛び込むとか、木登りとか)もさせると言います。

 親の世代ならけっこうやったはずの「缶けり」遊びをイメージしてみてください。自分が鬼の場合、缶からどれくらい離れて、隠れているやつらを見つけに行ったらいいのか。あの倉庫の裏に何人、あの木の後ろに何人。そんな空間的なイメージをして、距離を測りながら探しに行きます。

 こういう遊びが空間認識を鍛えるんです。

 また、鳥瞰図的な世界観は、木に何度も登ったことがないとつきにくいかもしれません。平面図の世界を斜め上から見るとどう見えるのか、高いところに登って同じ風景を繰り返し見たことがなければ実感できないでしょう。

 こうした遊びのなかで獲得する空間認識が、図形や立体の問題を解くのに大事なんだそうです。図形問題を見たときに、問題を解く鍵になる接線や補助線が想像できるかどうか。円と円があったら、その円同士の接線を見出したり、多角形のなかにいくつも三角形となる補助線を引く力のことです。

このように、アタマの柔らかさは「遊び」のなかで育まれます。

 一方、保守的な官僚や仕事のできないビジネスパーソンに特徴的なのは、「遊び」がないこと。「学力」があるので、物事を高速で処理する力は高いのだろうけれど、「遊び」の体験の蓄積や、イマジネーションが欠乏しているケースが多いのです。

その意味では、高級官僚や医者や弁護士などの職種が、小学校の低学年から受験勉強に追われた人たちに支配されるのは、社会的には非常にリスクが高いと言えるのではないでしょうか?

 実際、コミュニケーション能力の低い医者や弁護士が多くなってきたという話も聞きます。コミュニケーションできない医者にかかりたくはないし、コミュニケーションできない弁護士に依頼したら余計ややこしくなってしまうでしょう。

 僕自身、コミュニケーション能力養成講座をやってほしいと大学の医学部に頼まれたこともあるのですが、それにはこうした背景があるわけです。