①善意の節電効果はバカにできない

 これまでの推計は、単に電気料金単価が上昇しただけで、社会的に節電が呼び掛けられた状況を分析しているわけではありません。料金単価が上昇していない現在でも多くの人が善意の節電に協力しています。電気の使用量は料金単価だけでなく、人々の善意にも依存しているのです。3.5倍という数字はおそらく、「電気使用量が料金単価だけによって決まる」という前提から出た数字だと思われます。

 善意の節電による需要抑制の分だけ、料金単価の上昇による需要抑制は少なくても済むのですから、その分料金単価の上昇幅も小さく抑えられると考えられます。

ピーク時の料金だけを高くすれば、
それ以外の時間に電気使用が「シフト」する

②需要を減らすのはピーク時だけ

 今回、電力使用を抑制しなければならないのはピーク時だけです。産業活動とクーラーの使用が集中する「夏場の平日の昼間」にだけ需要を抑制すればよいのです。それ以外の時間帯の電力使用が増えることは問題ありません。この点をうまく利用すれば、大きな犠牲を伴うことなく問題を解決することが可能です。電力使用をピーク時からそれ以外の時間帯にシフトさせれば、電力使用の総量を減らさなくてもよいからです。

 料金単価の上昇をピーク時に限定すれば、消費者は料金単価の高いピーク時から、安い時間帯へと電力使用を自発的にシフトするでしょう。電力使用時間をシフトさせられる分だけ、ピーク時の電力使用は価格上昇に対して大きく反応すると考えらます。

 実際に東京電力では、深夜電力が安くなるプラン(「おトクなナイト」「電化上手」など)を提供していますが、これらのプランを選んだ消費者の多くは洗濯や食器洗い、携帯電気機器の充電などを夜間寝ている間に行うなどして賢く電気を使っています。時間帯に関わらず単価が上がる場合は消費時間帯をずらすという対応はとれませんが、単価上昇の時間帯が限定されていれば、時間帯をずらせる分だけ単価上昇に対応できる余地が大きくなるのです。