司法制度改革は失敗だった。もう法曹資格に経済的価値はない――。特集企画の取材で113人の法曹関係者に本音を聞くと、特に弁護士でこう漏らす人が多い。弁護士人口が増え過ぎた一方で仕事が増えず、収入が下がり続けるという現実に直面しているからだ。(週刊ダイヤモンド2017年2月25日号の第1特集は「弁護士 裁判官 検察官 司法エリートの没落」。法曹3者がそれぞれ抱える環境変化への苦悩を追った)

弁護士にもう「バラ色の人生」はない…司法制度改革失敗の傷跡司法制度改革は「是」か「非」か。法曹関係者に問うたところ、天秤は「非」に傾いた(写真は公正な司法のシンボルであるテミス像)

 法曹人口増加を図り国民に十分な法律サービスを提供すべく、国と法曹関係者を中心に、1999年から法科大学院制度や裁判員制度などの司法制度改革が実行されていった。背景には、「これから訴訟が増える」という改革推進派の目論見があった。一時は過払い金利息返還請求バブルなどで訴訟件数が急増し、甘い汁を吸った弁護士もいたのもたしかだ。

 しかし、基本的に日本ではトラブルを訴訟で解決しにくいという問題が横たわる。

 米国では被告も証拠提出の義務があるが、日本では訴訟の前に原告がしっかりと証拠収集をする必要がある。しかも証拠資料の必要性を示すのも原告側で、訴訟に至るまでのハードルが高いのだ。

 そのため当初の思惑が外れて訴訟件数は減少傾向となり、法曹人口増加の受け皿ができなかった。

 『こんな日弁連に誰がした?』(平凡社)の著者である小林正啓弁護士は、「昔は10年かけて司法試験を受ける人もいた。ハイリターンだったからこそ一生をかけて挑戦できた。しかし、今はローリターンの上に、法科大学院で奨学金に頼って多額の借金を抱えるなどハイリスクとなり、法曹資格そのものに魅力がなくなった」と語る。

 その上で、「日本弁護士連合会は『我々は勝った。司法制度改革万歳』と言っていたが、私はむしろ負けたと著書で伝えたかった」と、改革の弊害を指摘する。