ハーバードケネディスクールの危機管理合宿に唯一の日本人として招待され、世界中の危機管理専門家とあるべき危機管理について学んでいる。このたびの日本の地震、津波、原発、風評被害、電力不足の五重苦から911、キューバミサイル危機まで世界中の事例についてその危機管理を自由討論しながら分析する。
ここに集結したメンバーとの議論はおもしろい。CIA、FBIの対テロ組織、国務省、国土安全保障省、FEMA(緊急事態管理庁)、運輸省、保健衛生省等から上級幹部が派遣されてきている。ハリケーンカトリーナ、ソマリアのブラックホークダウン、911、ハイチ地震、これらの現場にいた方々が多い。突然想定を超えたスケールで起こり、事態が急速に悪化する。そこで素早くかつ正確な判断が求められる。
また危機が深刻化するにつれ、対応する組織の数は増え、組織間の軋轢や縄張り争いも起きてくる。本来であれば、組織をよりよく連携させるために政治家が必要なのだが、政治家には別の意図がある場合も多い。こうやって対応面でも危機は深刻化していく。現在日本ではこのたびの震災や原発問題で政府や東電に批判が集中しているようだが、日本で明らかになってきた危機管理の課題は、じつは世界共通のものが多い。
アメリカが世界中から集めている“危機とその対応の失敗の蓄積”は見事だ。危機管理の失敗事例に対する率直な対応もアメリカならではだ。「危機は必ず起こり、それは組織間対立で深刻化し、最後に介入してくる政治家が最悪にする」。この前提から議論や分析はスタートする。本当に学べる!
昨日はスリーマイル島原発事故のケースを議論。当時の映像を皆で見る。情報公開は今回の東電よりひどい。あらためてそれを知って米国の危機管理のプロたちが憤る。スリーマイル島の原発運営会社は事故の発生も重大性も公表しない。地元のラジオ番組が「冷却塔から煙が出てない。何かおかしいぞ」と報道したのを契機に、取材が始まった。そこでも事実を伝えられなかった。
スリーマイル島でメルトダウンが確認されたのは事件の3年後。専門家ほど破たんした理論にとらわれ、現状認識を間違いやすい典型例だ。
アメリカの危機管理専門家たちは日本の原発の対応に批判的ではない。それは自分たちのスリーマイル島のときの対応を知っているからだ。「大事なのはここから学んでしっかりした危機管理体制を作り上げていくことだ」と口を揃える。