吉田 取り組み始めてから、どれぐらい経ちますか。

星野 2年ぐらいですね。マイケル・ポーターの『競争の戦略』(注3)を全社員で学び、強みの分析や生かし方などは定着してきました。そこで、次なる課題として、組織内にイノベーションを内在化させる取り組みを始めたのです。

 私が期待しているイノベーションは、改善を超える領域にあります。ベンチマークとなるような事例はまだ創出できていませんが、この活動を続けていけば必ず、考え方や発想そのものが変わっていくと思うのです。

フラットな組織とは、組織図ではなく、人間関係の自由さにある

吉田麻子(よしだ・あさこ)/カラーディア代表。ドラッカー研究者 佐藤等氏、ブレイントレーニングの第一人者 西田文郎氏を師と仰ぎ、ドラッカーとブレイントレーニングを色彩学に融合させる。ドラッカー読書会ファシリテーター。函館、滋賀に拠点を持ち、北海道~九州まで、全国複数拠点で読書会やセミナーを開催している。

吉田 組織のフラット化にも長年、取り組まれていますね。

星野 フラットな組織づくりは、星野リゾートのすべて、つまり本社だけでなく各ホテルや旅館の現場でも実践されるべき最も重要な取り組みです。人事評価でもウェイトの大きな項目となっていますし、ケン・ブランチャード(注4)の『1分間エンパワーメント』は私たちの教科書です。

 誤解のないように言っておきますと、フラットな組織とは役職数が少ない、組織図にしてピラミッド階層が薄い、ということではありません。あくまでも人間関係のフラットさです。人間関係のフラットさが組織運営の前提になっていなければ、言いたいことを言いたい人に言えなくなります。

 日本には年功序列の文化があり、ただでさえ若い人は先輩や上司にはものを言いにくい。だから星野リゾートでは、互いを役職名ではなく「さん」付けで呼びます。決裁権限は総支配人やディレクターにあるけれど、私はいつも「権限はあるが、それ以上でもそれ以下でもない」と言い続けています。

吉田 そうできれば理想的ですが、やっぱり本音と建前が残ってしまいませんか。

星野 いや、そんなことはないですよ。最近も自信を深めたことがありました。星野リゾートは2015年からタヒチの「キア オラ ランギロア」の運営を担っていますが、オーナーからは、「タヒチの人は、正直、働き者とは言えません。(ストが多く労働者の権利が強い)フランスの労働法に基づいているので、ご苦労なさるでしょう」と聞いていました。

 しかし現地の従業員に「フラットな組織」の考え方を説明し、経営情報も包み隠さず開示してきたところ、島への誇りが強いだけに「(お客さまには)ランギロアはよいところだと思って帰ってほしい」と、新しいサービスや改善案をどんどん出してきたのです。

 日本での運営となんら変わりません。星野リゾートの仕組みを、そのまま移植できる。これは嬉しかったし、大きな学びになり、自信も得ました。2017年には星のやバリをオープンしましたが、ここでも従業員の意欲は同じでした。

 これまで、タヒチのような島のリゾートでは、本社が作ったマニュアル通りに動けと言われ、単なる労働力としか見られてこなかったのです。しかし私たちは、「君たちはサービスクリエーターだ」と言う。クリエーターとしての働き方は、本当に楽しいのだと思います。

注3 競争の戦略
戦略と言えばマイケル・ポーター。「ファイブ・フォース(5S)分析」「戦略3類型」「バリューチェーン」というキーワードを聞いたこともあるだろう。1980年、最初の主著『競争の戦略』が世界的ベストセラーに。以来、戦略思想の最前線に立ち続けている。

注4 ケン・ブランチャード
世界的ベストセラー、1分間シリーズの著者であり、名だたる企業が導入するリーダーシップ養成教材「Situational Leadership(SL=状況対応リーダーシップ)」の共同開発者でもある。コーネル大学で博士号を取得、同大の講師、名誉理事を務める。
『社員の力で最高のチームをつくる―――〈新版〉1分間エンパワーメント』