ヤマト運輸による
会社への「異例の要求」
2月下旬、宅配最大手ヤマト運輸の労組は、春闘の労使交渉で賃上げに加え、来年度の宅配便の取り扱い個数が今年度を超えないよう会社側に求める異例の要求をした。これは、同社始まって以来の事態だ。背景にはアマゾンなどの宅配の急増がある。サービス競争で業務量は増える一方なのに、人手が追い付かない。だがこれはヤマトだけに限ったことではない。人手不足という日本経済の新たなボトルネックが浮き彫りになった。
ヤマト運輸をはじめとする宅配業者は、これまで、アマゾンをはじめとするネット通販会社の配達を比較的安価な料金で引き受けてきた。
こうした運送業者のビジネスモデルは、労働力を十分に確保できることが前提だった。ところが、少子高齢化の進展などに伴い、労働市場は急速にひっ迫し始めている。2016年の有効求人倍率は1.36倍に達した。中には求人倍率が2倍を超える業種もある。物流などの運転手や建設、介護などの人手のいる業種や職種を中心に労働市場は"売り手"市場になっている。
その結果、ヤマト運輸のように、業務の増加とともにコストも増え、利益率が低下する企業も出ている。人件費の高騰を抑えるために、増えた業務を既存の労働力で補おうとするほど、現場への負担が増え、労働環境が悪化する。問題は、そうした状況が今後、さらに進むと見られることだ。労働力の供給は徐々に減少するとみられ、それが経済成長の制約要因になる可能性が高い。長い目で見た場合、企業が労働力の減少をカバーする取り組みを進めることができなければ、成長が鈍化する恐れがある。
その意味でヤマト運輸のケースは、一時的かつ特定の企業に固有の現象というよりも、日本経済が直面する重要課題が表面化していると理解すべきだ。