今国会で提出が予定されている「健康増進法改正案」。受動喫煙防止のために、飲食店は建物内禁煙を求められるが、吉野家ホールディングスの安部修仁会長は、「個人営業の飲食店にまで一律に課すのは、あまりに現場感覚が欠如している」と指摘する。(構成/フリージャーナリスト 室谷明津子)
問題は大手チェーンより
個人商店への影響
他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙の対策を盛り込んだ、「健康増進法改正案」が今国会で審議される予定です。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、厚生労働省が「受動喫煙による健康被害のない国にしたい」と訴えるのは、時代の要請なのでしょう。私も長年愛煙家でしたが、いまは煙草をやめています。他の先進国を見ても、また国内で若者の喫煙率が低下している。禁煙の流れは社会でさらに進むだろうと思っています。
ですから、私は受動喫煙を防止する社会の流れ自体は止められないと思いますが、今回の法案提出に対しては、明らかに反対の立場です。数多くの同業者、そして業界団体である日本フードサービス協会(以下、JF)も同じ思いで発言しており、今年1月には緊急集会を開いて決議を行いました。
今回の法案では、飲食店やホテルといったサービス業は「原則建物内禁煙」(ただし、喫煙室の設置を認める)とされ、学校や病院といった公共施設では、より厳しい「敷地内全面禁煙」を提案しています。この内容に対してJFは、飲食店に一律に「原則建物内禁煙」を課すことに反対し、「これまで取り組んできた業界の自主的な取り組みについて、一層の理解と支援と賛同を求める(一部抜粋)」という決議文を提出しています。
先ほど申し上げた通り、受動喫煙の防止は時代の要請です。それを受けて、この10年で大手飲食チェーン店のほとんどが全面禁煙、あるいは分煙に踏み切っています。居酒屋も多くが分煙ですし、いまやランチの時間に、チェーン店で堂々とたばこが吸える店のほうが少ないでしょう。「これまでの自主的な取り組み」というのは、消費者である皆さんがふだん、外食をする中でお気づきになっていることだと思います。
一方でいま、日本で喫煙者がゼロかというと、そうではありません。年配の方を中心にたばこを嗜む方はまだ相当数いらっしゃいます。全国に個人営業での飲食店は約62万店ほどありますが、その中には、大手チェーン店が禁煙化に進む中でこぼれ落ちた喫煙者のニーズを拾い上げ、成り立っている店も少なくありません。昔ながらの喫茶店やバー、スナック、小さな飲み屋さんではたばこを吸える店が多く、お客さまの側にも、そういう場所でくつろぎたいというニーズがあります。