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東京電力救済案の本当の意図

山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
【第178回】 2011年4月27日
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被害者からカネを取る前に

 マイケル・サンデル教授のベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』の冒頭には、ハリケーン・チャーリーで被災したオーランドで、生活に必要な物資やサービスに高い値を付けて売ることが、倫理的に許されるか否か、という印象的なケースがあった。この問題とは性質が異なるが、福島第一原発の事故をめぐる東京電力の問題に関しても、サンデル教授の意見を聞いてみたいところだが、教授がくれたアドバイスは、「私のアドバイスは、思慮深く、丁寧な議論をすること」というあっさりしたものだった(asahi.comより)。

 この問題については、日本国民が自分たちで考えなければならないようだ。

 数日前に、福島第一原発事故に伴う東京電力の賠償に関わるスキームの政府案が報道された。賠償の範囲も金額も発表されないうちに、支援の仕組みが発表される順番自体が相当に不思議だが、その内容も随分奇妙なものだった。

 賠償を支援する新組織(本稿では仮に「原発賠償機構」と呼ぶ)を作って、ここに政府から交付国債、他の電力会社からは将来の原発事故に備える名目での保険料的な負担金などのお金を集め、さらに政府保証付きで金融機関からの融資も行う形とするようだ。要は、東電を倒産させない仕組みだ。

 事故の被害者に対する賠償は東京電力が行う。この賠償金の最終的な負担者が誰になるのかは、報道されている仕組み図を睨んでいても分かりづらいが、東京電力は、この機構の負担金を、将来の収益から原発賠償機構が支援の際に保有する優先株の配当などの形で返済することとなるようだ。これでは足りない損失が発生した場合、東電も含む電力会社が納める保険料が充当され、さらに足りない場合、あるいは政府が贈与を決意した場合に納税者の負担になる。

 本件の利害関係は非常に錯綜しているが、たとえば首都圏の住民(東電管内の電力ユーザー)から見ると、停電のリスクや節電運動に不自由な思いをし、食品や水に不安を覚えるような被害を東電から受けながら、結局、将来の電力料金を通じた負担で、自分たちが東電の不始末の経済的尻ぬぐいをさせられることを意味するのではないか。

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山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。


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