原発事故によるこころのダメージは、
チェルノブイリよりも日本のほうが大きい

 1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故から、奇しくも今年で25年がたちました。事故と健康被害の因果関係はまだはっきりとしませんが、現段階で最も深刻なのは、メンタル面の被害だと言われています。

 原発事故の影響を受けていないグループと比較すると、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するケースが明らかに多い。25年前には生まれていなかった、直接事故を経験していない子どもたちにも影響が出ているといいます。事故当時、チェルノブイリ周辺にいた親が精神的に不安定になり、その親から事故の話を聞いた子どもたちの心が不安定になっているというのです。

 東京電力が原子力発電を推進するため毎年発行している冊子に、こんな内容の話が書かれています。

「チェルノブイリでは、放射能による被ばくの影響よりも、むしろ精神的な不安のほうが脅威であることが知られています」

 事故による健康被害がないことを強調したいための論理展開。そんな思惑も透けて見えますが、ここではその点については言及しません。ただ、原発事故が人々の心理面に与える影響は広範囲に及ぶという考え方は、おそらく間違いのないところです。

 チェルノブイリでは、直接被害を受けた地域の人が避難しなければならないというストレスがありました。それと同時に「目に見えない」「いつ来るかわからない」「いつ終わるかわからない」という不気味さによるストレスが大きかったと考えられています。

 今回の福島第一原発の事故でも、ストレスの構造はチェルノブイリと同じです。しかし、いまの日本のほうが、心理面に与えるダメージは大きくなるかもしれないと私は考えています。

情報があり過ぎることで、
日本人は強いストレスから逃れられない

 理由はいくつか考えられます。

 チェルノブイリの事故では、情報伝達手段が少なかった25年前という時代、情報が隠蔽されていた社会主義国家での出来事ということもあって、情報がないことによる恐怖は少なからずあったと思います。ただ、その不安はある意味で限定的だったということも言えるでしょう。

 反対に、今回の日本のケースでは、情報があり過ぎることによるストレスが浮き彫りになっています。これまでは、情報が多いほど安心につながると言われていたのに、過剰にあり過ぎるため目を背けることも、逃げることもできなくなっているのです。