
煩悩や欲にとらわれ、悩みながら生きるのは人の運命。たとえそうだとしても、その煩悩を少しでも軽くする方法はあるのだろうか?かつて、IT企業でCEOを務め、数字や他人からの評価を気にして生きていた小野龍光氏は2022年にインドで得度を受けた。過去の名声を“捨てた”小野氏に、精神科医の香山リカ氏が煩悩との付き合い方について問う。※本稿は、小野龍光、香山リカ『捨てる生き方』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。
生きている限り逃げられない煩悩
重要なのはすぐに火消しすること
香山 私はまだまだ俗世間の煩悩に振り回されることも多いんですが、龍光さんは、得度されてから煩悩が頭をもたげてくる瞬間があったりするんですか。あるがままにといっても、そういうものが邪魔して心おだやかでいられなくなることってありますか。
小野 生きているかぎり、欲は100パーセントなくならないものだと思います。なぜならば、呼吸を止めたら死にますよね。呼吸って、ある種の欲じゃないですか。でも時に、どんどん膨らんで苦しみにつながりうる、煩悩と呼ばれるタイプの欲というものも、生きている以上は生まれてしまうものだと思うんです。
そういうときは、瞑想などを通して欲を流すという実践を日々重ねると、欲が膨らんで手に負えなくなることに悩まされにくい自分を育てていけると実感しております。これは筋トレみたいなもので、実践していくうちに鍛えられていくものだと思います。雑念や煩悩が浮かんできても、すぐその瞬間に流していく。
煩悩というのは膨らんでしまうと、自分でも抗えなくて、膨らんで炎が燃えているということにも気がつかず、炎のなかに吸い込まれるような状況になってしまうと、消すのは苦しいし、消すのに時間もかかる。でも、ボヤの段階であれば、消しやすいでしょう。
瞑想というと馴染みのない方には、何か特殊なことのように感じられるかもしれませんが、要は呼吸を意識することが大切だと考えています。これはけっこう実践的なんですが、とくに鼻腔(びくう)の息の出入りで空気があたる部分の触覚に意識を集中する。何かで心が乱れているときは、呼吸に変化が出るものなので、呼吸の変化に意識を持つことで、自分の肉体的、あるいは心的な変化に気づきやすいんですね。