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学校の放射線許容量はなぜ迷走しているのか
――福島原発震災 チェルノブイリの教訓(6)

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
2011年5月7日
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 文部科学省は4月19日に、福島県の小中学校や幼稚園などの校庭を利用する際の暫定的な放射線許容量を発表した。この文書の数値的根拠は、原子力安全委員会に助言を求めた原子力災害対策本部が書き、それを文部科学省へ送って同省が公表したものである。つまり政府の意思決定である。

 それによると、屋外活動時間などの前提をいくつか設定した上で、放射線許容量を年間20ミリシーベルトとした。

 この数値をめぐって4月末の1週間で混乱が起きた。一般公衆の被曝限度量は年間1ミリシーベルトだから、一挙に20倍引き上げたことになるからである。

 子どもの許容量を20ミリシーベルトとすることに対して、原子力安全委員会の委員の一人が「子どもは半分の10ミリシーベルトが望ましい」と発言した(後に撤回)。

 また、内閣府参与の専門家が「子どもは1ミリシーベルトのままにしておくべきで、20ミリシーベルトは高すぎて許せない」と記者会見で語り、参与を辞任した。さらに、米国の医師団体が「20ミリシーベルトは高すぎる」として反対の声明を発表している。

 「20ミリシーベルトは妥当」「いや、高すぎる」と、政府内部や専門家の間で意見が分かれたことがわかる。市民が混乱するのは当然のことだ。どうして専門家の意見が分かれるのだろうか。

 まず4月19日付の文科省が発表した文書を抜粋しておこう。

福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方

平成23年4月19日
原子力災害対策本部

 国際放射線防護委員会(ICRP)のPublication109(緊急被ばくの状況における公衆の防護のための助言)によれば、事故継続時等の緊急時の状況における基準である20-100ミリシーベルト/年を適用する地域と、事故収束後の基準である1-20ミリシーベルト/年を適用する地域の並存を認めている。また、ICRPは、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベルとして、1-20ミリシーベルト/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明を出している。

 このようなことから、児童生徒等が学校等に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1-20ミリシーベルト/年を学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であると考えられる。

 (中略)また、16時間の屋内(木造)、8時間の屋外活動の生活パターンを想定すると、20ミリシーベルト/年に到達する空間線量率は、屋外3.8マイクロシーベルト/時間、屋内木造1.52マイクロシーベルト/時間である。(後略)

 ICRPの「2007年勧告」を元にして今回の措置を案出したことがわかる。1-20ミリシーベルトの幅が初めて出てきたわけだ。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


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