つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の読みどころをお届けする。
(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)
「首をとること」は目的ではない
これまで我々は、甘利明氏、宮崎謙介氏、舛添要一氏など、政治家のスキャンダルを数多く暴いてきた。大臣辞任や議員辞職に追い込まれた人もいた。ただ、我々は「首をとること」を目的にスクープを狙っているわけではない。我々がするのはあくまで「ファクト」の提示である。「みなさん、知っていましたか?」「この人はこんなことをしていますよ」。そこまでだ。
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。
舛添さんの会見で「どうすれば舛添さんは辞めてくれるんですか?」と聞いたテレビ局の人間がいたが、あれは傲慢そのものだ。ものすごく不愉快で「あなたは何かひとつでも自分で取材して、新たな疑惑を突き付けたのか」と思った。
一方で、安倍政権の圧力でメディアが萎縮しているのではないかという議論がある。そういう面もあるかもしれないが、それに対して「圧力だ!」と言って抗議するよりも、「相手にとって不都合な事実」を突き付けたほうがインパクトは大きい。安倍政権に対して旧態依然とした批判を繰り返すより、政権に問題があればファクトで武装して戦うべきなのだ。メディアの武器は、論よりファクト。それこそが報道機関による権力との戦い方である。
相変わらず「右だ」「左だ」とイデオロギーで色分けする傾向は根強いが、こうしたイデオロギーが前面に出てしまうと、グレーのものが白にも黒にも見えてしまう。週刊文春はイデオロギーよりリアリズムで戦う。「ファクトの前では謙虚たれ」と私は常々、現場に言っている。
我々は「たかが週刊誌」である
週刊文春が世の中を動かす「きっかけ」になっているのは事実かもしれないが、結果的にそうなっているだけで、「世の中を動かしている」なんて全く僭越な話である。「動かそう」なんて大それた意識などない。我々がやっていることは極めてシンプル。「世の中の人が興味を持っている人物や事件」について「建前やきれいごとではない本音の情報」を「なるべく本質に迫るような内容」で「わかりやすく」、ときに「おもしろく」提供していくこと。それが週刊文春の仕事だ。その結果、活動を自粛されたり、辞任につながったりもするが、最初からその結末を狙っているわけではないことは強調しておきたい。
自分で言うのもなんだが、我々は「たかが週刊誌」だ。一週刊誌が「大臣の首をとってやる」なんて、そんな傲慢な姿勢で雑誌を作ったら、世間はそっぽを向くだろう。何よりも、自分自身が読者としてそれは嫌だ。何様のつもりだよと言われてしまう。