米国の連邦準備制度理事会(FRB)が「追加利上げ」を決めた約10日前の3月3日、フィッシャー副議長が行った講演については、金融市場では利上げを示唆する質疑でのやり取りの方にメディアや市場の注目が集まった。しかし、実は講演自体のテーマは「金融政策:ルールによるべきか、委員会で決めるべきか、それとも両方か」というものだった。短い講演なので原文を読まれることを勧める(FRBのホームページに掲載されている)が、要するに二つの点を主張している。
ルールより合議制
副議長の反論
主張の第一は、金融政策は委員会のような合議制で決定することが望ましいという点である。フィッシャー副議長は、その理由として、(1)各メンバーが各々固有の情報や見解を持ち寄ることができる、(2)メンバー間の議論の結果としての政策判断は過度に不安定なものにはなりにくい、(3)単一の経済予測に比べて、複数の経済予測の組み合わせの方が正確であることが理論的にも明らかになっている、といった点を挙げている。
加えて、フィッシャー副議長は、FRBの設立当時も現在も、米国経済は産業的にも地理的にも大きな多様性を有しているだけに、金融政策を議論し決定する場である連邦公開市場委員会(FOMC)に地区連銀総裁が直接に参加することが非常に有用であるとしている。つまり、合議制によって金融政策を決定することの意義が、米国の場合には特に大きいことを強調している。
第二に、金融政策でのルールの位置付けは、合議制で政策を決定する際の要素の一つとすることが望ましいという点である。この点に関して、フィッシャー副議長は、FRBが金融政策のルールを採用すべきとするオルファニデス氏(元イスラエル中央銀行総裁)の主張を披露しつつも、同氏がルールのベースとなる経済モデルや重要変数(自然利子率)の不確実性、期待形成に関する仮説の頑健性などの点に十分な配慮や検証を行うべきとの留保条件を付したことを指摘している。
その上でフィッシャー副議長は、金融政策ルールの泰斗であるテイラー氏自身も「より良いルールを求める努力には終わりがない」と述べていることに言及しながら、金融政策ルールを政策決定の際に参照するのは有用としても、単一のルールによって金融政策を機械的に運営することには反対との立場を明確にしている。その理由として、(1)実際の経済は複雑であり、特に経済主体が政策にどう反応するかをモデル化するのは極めて困難である、(2)しかも経済は刻々と変化するので、経済モデルはそれに対応する必要がある、(3)委員会の各メンバーが持ち寄る多様な経験や見方を取り込みうる経済モデルは存在しない、といった点を挙げている。