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外科医のつぶやき

“大変”を乗り切らないで
新しい価値は創造できない

柴田 高
【第29回】

 正月明けの業界の集まりで、ある有名企業の社長さんのご挨拶を聞く機会があった。

 「大変な時代、大変なことが続くいま、われわれはどのように行動しなければならないのでしょうか。“大変”という言葉は“大きく変わる”と書きます。価値観やルール、人々の求めるものも大きく変わります。そのような変化し続ける市場に対して企業は…」

 と話は続いた。

 医療界の“大変”といえばルールや方法が変わることでもよく起こる。最近のルール変更といえば新臨床研修医制度である。かつて学生運動の引き金となり、廃止されたインターン制度は、医学教育の高度化に伴い、医学研修の制度疲労と、さらに未熟な研修医の医療事故報道などで、インターン制度と同様に強制力のある新臨床研修医制度として実施されるようになった。しかしながら、そのルールの変更は大学病院の医局機能であった、医師の適材適所という医師派遣の機能を低下させ、医師の偏在と医師不足をもたらした。一方、医療界の“大変”は医療の進歩によってももたらされることがある。

 「先生、これからは腹腔鏡手術ですよ。これから、良性疾患のみならず早期のガンもおなかを大きく切る開腹手術から腹腔鏡手術に変わります。関西で最初に導入されたO先生の病院で手術手技を勉強して当病院でも実施してください」

 とT病院、外科主任部長の言葉。1990年に日本へ上陸した腹腔鏡下胆嚢摘出術は1~2年のうちに全国に広がり出した。そんななか、私は同僚のK先生と二人で、その手術習得のため、O先生の病院へ訪れた。

 「先生方は胆石症や胆嚢ポリープに対する開腹胆嚢摘出手術は、たくさんなされていると思いますが、腹腔鏡で行う場合、いままでの経験はまったく役にはたちません。最初からまったく別の手技を学ぶつもりで」

 というO先生の言葉で手術が始まった。私はカメラを担当し、同僚のK先生は二酸化炭素発生器の操作を担当した。患者さんは全身麻酔され、お臍の近くから10ミリの筒状のシリンジが挿入されて、横の蛇口から医療機器につながる二酸化炭素ガスが送られる。おなかがガスで膨らむと同時に、腹腔鏡と呼ばれる金属製の棒状のカメラを前もって挿入された筒状のシリンジから挿入する。お臍の左右の小さな筒から、棒状の手術操作のための鉗子が挿入されている。患者さんの頭の横に20インチのテレビモニターがあり、カメラを進めると筒状のトンネルが映し出され、おなかの中の様子が映し出される。

 「ほ~、テレビモニターではお腹の中がこのように映るのか」と私は思いながらカメラを患者さんの胆嚢へと進めようとするも、うまく胆嚢の画面が出せない。「ダメだ、逆、逆」とO先生が私の手元をつかんでカメラを振った。するとO先生が持つ棒状の鉗子と胆嚢が現れた。

 「おなかを切って手術をする通常の開腹手術は直接、眼と手で確認できます。しかし先生の持つカメラが全員の目となります。私の持つ左右の鉗子は遠隔操作の手術道具となるので、操作をよく見てください」とO先生。

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柴田 高

川崎医科大学卒業後、大阪大学論文博士課程修了。日本外科学会指導医。日本消化器外科学会専門医。現在は大幸薬品社長。著書に『カリスマ外科医入門』『肝癌の熱凝固療法』がある。


外科医のつぶやき

現在は製薬会社役員である外科医師による医療エッセイ。患者の知らない医師の世界。病院の内側が覗ける、ここだけの話が満載。

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