5月31日、中国国家旅游局の邵局長率いる訪日団を、日本側はおそらく感慨深い思いで迎えたことだろう。東日本大震災と福島原発事故の影響で大きな打撃を受けた日本の観光事業を再振興させるまたとないきっかけにしようと、多くの観光関係者がその集いに駆け付けた。

 その意味では、「震災の被害が甚大な地域以外へ、中国から日本への団体旅行を復活させる」という邵局長の宣言は頼もしく聞こえる。春秋航空の上海~茨城、上海~高松定期チャーター便運航の再開や、JTBの中国現地法人の中国人海外旅行業務に対する認可などがその具体策として注目されている。

 こうした中国側の取り組みによって、東日本を除けば、中国人観光客はある程度は戻ってくるだろうと思う。ただ、中国政府の政治的な視点で送り込まれる観光客は、ある意味ではたかが知れた程度にとどまると私は見る。

 邵局長の日本での発言を見ると、中国人観光客を送り込むことを約束したと喜ぶ日本のメディアが多いが、邵局長の発言には中国側からの重要な注文が潜んでいることを忘れてはいけない。

 まず最も重要な注文は、中国人観光客の心配を取り除くことだ。

 実は同じ5月31日に中国での視察を終えて上海から日本へ帰ろうとしていた私は、上海の空港で、そこに勤務する顔見知りの中国人職員に相談を持ちかけられた。

 「地震が起きた3月11日の前に、訪日を計画してビザを取りました。地震後は訪日を諦めていましたが、最近はすこし落ち着いてきたような気がするので、ビザの期限が来る前に日本に行こうかなと考えています。ですがやはり不安です」

 その職員の訪問先は親戚がいる東京だという。東京の現在の状況や注意事項などを説明すると、安心した表情で、「莫さんがそうおっしゃるなら、私も安心します。本気で訪日計画を進めます」と礼を言ってくれた。

 今回の地震の後、中国人観光客が日本旅行を敬遠した最大の原因は地震ではなく、福島原発事故である。「日本は安全」「風評被害」などと日本側が盛んに主張しているが、放射能汚染が広がっている事実に素直に触れたがらない日本を見て、中国またはその他海外の観光客は日本側が情報隠ぺいをしているのではと逆に疑ってしまう。

 中国人の訪日旅行を促進するための前提条件として、「震災の関連情報を速やかに、正確に公表してほしい」と邵局長が日本側に注文した理由もまさにそこにある。原発事故の情報を迅速かつ正確に伝え、その収束を効率的に進めない限り、中国人観光客の増加も限られたものになると思う。