ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
遺伝子は、変えられる。 ――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実
【第1回】 2017年4月21日
著者・コラム紹介バックナンバー
シャロン・モアレム,中里京子

人生も遺伝子も、あなたの手で変えられる。
「遺伝学者×医師」が解き明かすDNAの真実

1
nextpage

「遺伝で決まったことを、変えられるわけがない」――この連載のタイトルを見た方は、そう思われたのではないだろうか。だが、もしこれが、「完全に間違っている」としたら? 実はいま、ゲノム編集と並んでいまホットな遺伝子のトピック「エピジェネティクス」によって、私たちが遺伝子に対して抱く常識は、ことごとく覆されているのだ。
遺伝学者にして医師、起業家、作家、という多才な肩書を持つシャロン・モアレムが贈る極上のノンフィクション『遺伝子は、変えられる。』から、遺伝子の最前線へと誘うプロローグをお届けしよう。

「遺伝=運命」はもう古い?
「遺伝子スイッチ」エピジェネティクスとは

 あなたは、中学1年生のときのことを思い出せるだろうか。

 クラスメートの顔。先生、事務の人、校長先生の名前。始業や終業のチャイムの音。スロッピージョー〔ひき肉をはさんだバーガー〕が献立に出た日のカフェテリアの匂い。初恋の胸の痛みはどうだろう。いじめっ子にトイレで出くわしてパニックに陥ったときのことは?

 そうしたことすべてを鮮明に覚えている人もいるだろうし、中学時代の日々は、子供時代の他の多くの記憶といっしょに、ぼんやりした霧に埋もれているという人もいるだろう。

 だがいずれにしても、そうした記憶が今でもあなたの中に残っていることは間違いない。

 人は、経験したことすべてを精神というナップサックの中にしまって背負いつづける、という事実は、かなり前らわかっていた。たとえ意識の上に呼び起こせなくても、精神のどこかにとどまり、潜在意識の中にたゆたって、予期せぬときに浮かびあがってくる――本人の都合などおかまいなしに。

 だが実際は、もっと複雑だ。人の身体は常に変わって再生しつづけ、いじめっ子や初恋、はたまたスロッピージョーのような些細な記憶までのあらゆることが、ぬぐい去れない印となって残っていく。

 さらに重要なのは、それらがゲノムに刻み込まれるということだ。

 もちろんこれは、30億個の文字が連なった遺伝的「継承物(インヘリタンス)」について学校で習ってきた話とは違うだろう。グレゴール・メンデルによって19世紀半ばに行われたえんどう豆の遺伝形質に関する研究が遺伝学の基礎に据えられて以来、「あなたがどんな人間になるかは、祖先から引き継がれてきた遺伝子に完全に依存している」とされてきた。お母さんからちょっともらってきて、お父さんからもちょっともらってきて、ちゃちゃっと混ぜれば、さあ、あなたの出来上がり、とでもいうように。

 遺伝に関するこの化石然とした考えは今でも中学校で教えられていて、生徒たちはこうした考えのもとに、目の色、巻き毛、舌の両側を巻いて筒型にする能力、指にあるムダ毛などがどこから来たのかを調べようとして家系図を作る。そうして得た、まるでメンデル自身が石板に書いたみたいな結論は、「お母さんとお父さんがあなたを作った瞬間に、遺伝によって受け継ぐものは完全に決まってしまったのだから、あなたが何をもらったか、何を子孫に与えるかについては、選択の余地などほぼまったくありません」というものだ。

 でも、これは完全に誤っている。

 なぜなら、たった今も――デスクの前の椅子に座ってコーヒーをすすっていようが、自宅のリクライニングシートに沈みこんでいようが、ジムでサイクリングマシンを漕いでいようが、はたまた国際宇宙ステーションで地球周回軌道に乗っていようが――あなたのDNAは常に改変されつづけているからだ。それは言ってみれば、何千という小さな電球の個々のスイッチが、あなたがやっていること、見ていること、感じていることに応じて、オンになったり、オフになったりするようなものだ

 このプロセスは、あなたがどこでどのように暮らすか、どんなストレスを被るか、何を食べるかなどによって仲介され、調整される。

 そして、これらはすべて変えることができる。つまり、あなたは確実に変わることができるのだ――遺伝子的に。

 とは言っても、ぼくらの人生が遺伝子によって形づくられてもいることを否定するわけではない。それは、ほぼ間違いないだろう。実際、ぼくらの遺伝的な継承物――ゲノムを構成しているヌクレオチド〔DNAやRNAを構成する単位となる物質〕の「文字」――は、どんな突飛なSF作家でもほんの数年前まで思いつかなかったような方法で、ぼくらの人生を形づくり、影響をおよぼしていることが判明しつつある。

 ぼくらは日々、新たな遺伝の旅路に乗り出すためのツールと知識を増やしつづけている――使い古された海図を人生というテーブルの上に広げ、その上に、自分自身、子供たち、そしてさらなる子孫がたどることになる新たな航路を描くために。また、何らかの発見がなされるたびに、遺伝子がぼくらにおよぼす影響とぼくらが遺伝子におよぼす影響の理解もそれだけ深まっている。そしてこの「フレキシブルな遺伝」という考えが、あらゆる物事を変えつつある

 食物と運動。心理と人間関係。医薬、訴訟、教育、法律、権利、長年信奉されてきた定説と深く根差した信念。

 こうしたものすべてが変わろうとしているのだ。

 死さえもしかり。今の今までほとんどの人は、自分の人生の経験は自分の命が終わるときに消えると考えてきた。だが、それすら誤りなのだ。ぼくらは自分の人生経験の集大成であるだけでなく、自分の両親や祖先の人生経験の集大成でもある。遺伝子は、簡単には物事を忘れない

 戦争、平和、饗宴、飢饉、離散、病気――あなたの祖先がこうしたものを経験して生き延びてきたのだとしたら、あなたもその影響を受け継いでいる。受け継いでいるなら、何らかの方法でそれを次の世代に受け渡す可能性もそれだけ高いというわけだ。

 それはがんを患うことかもしれないし、アルツハイマー病、肥満になることかもしれない。あるいは長寿をまっとうできることかもしれないし、ストレスを乗り切る力や、幸福そのものを手にすることかもしれない。

 そして受け継いだものがよいものであれ悪いものであれ、それを受け入れたり、拒否したりすることが不可能ではないことをぼくらは学びつつある。

 この本は、その道筋を示すガイドブックだ。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
どうすれば、売れるのか?

どうすれば、売れるのか?

木暮太一 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2017年4月

<内容紹介>
売れるものには、法則がある!ヒット商品・話題のサービス、人気コンテンツ、行列のできる店…似たように見えるのに、なぜ売れるものと売れないものがあるのか?著書累計150万部、リクルート×サイバーエージェント×富士フイルムで学んだ、センスに頼らず、繰り返し人の心を動かす究極のメソッド。

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍

(POSデータ調べ、4/16~4/22)



シャロン・モアレム(Sharon Moalem MD, PhD)

受賞歴のある科学者、内科医、そしてノンフィクション作家で、研究と著作を通じ、医学、遺伝学、歴史、生物学をブレンドするという新しく魅力的な方法によって、人間の身体が機能する仕組みを説いている。ニューヨークのマウント・サイナイ医学大学院にて医学を修め、神経遺伝学、進化医学、人間生理学において博士号を取得。その科学的な研究は、「スーパーバグ」すなわち薬が効かない多剤耐性微生物に対する画期的な抗生物質「シデロシリン」の発見につながった。また、バイオテクノロジーやヒトの健康に関する特許を世界中で25件以上取得していて、バイオテクノロジー企業2社の共同創設者でもある。
もともとはアルツハイマー病による祖父の死と遺伝病の関係を疑ったことをきっかけに医学研究の道に進んだ人物で、同病の遺伝的関係の新発見で知られるようになった。希少疾患や遺伝病への深い洞察は、本書においても大きく活かされている。
著書に、『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーリストに列せられた『迷惑な進化――病気の遺伝子はどこから来たのか』(NHK出版)、『人はなぜSEXをするのか?――進化のための遺伝子の最新研究』(アスペクト)があり、35を超える言語に翻訳されている。また、医学誌『ジャーナル・オブ・アルツハイマーズ・ディジーズ』のアソシエート・エディターも務めた。
さらに彼の研究は広く一般でも注目されており、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ニュー・サイエンティスト』誌、『タイム』誌などに掲載されたほか、テレビ番組の『ザ・デイリー・ショウ・ウィズ・ジョン・スチュワート』『ザ・トゥデイ・ショウ』などでも取り上げられている。
http://sharonmoalem.com/

中里京子(なかざと・きょうこ)

翻訳家。20年以上実務翻訳に携わった後、出版翻訳の世界に。訳書に『依存症ビジネス』『勝手に選別される世界』(ともにダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』『ぼくは科学の力で世界を変えることに決めた』(ともに講談社)、『食べられないために』『ファルマゲドン』(ともにみすず書房)、『おいしさの人類史』『描かれた病』(ともに河出書房新社)、『チャップリン自伝』(新潮社)など。


遺伝子は、変えられる。 ――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実

食事、仕事、人間関係、環境……
何気ない日常が、遺伝子を変える!

医師に勧められた「健康的な食生活」でがんになった男、
ある食べ物と遺伝子の組み合わせでADHDになった男の子など、
遺伝子が織りなす不思議なストーリーと、
最新科学「エピジェネティクス」のすべてを語り尽くした『遺伝子は、変えられる。』から、
「遺伝=運命」という方程式を打ち破る、知の最前線をご紹介します。

「遺伝子は、変えられる。 ――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実」

⇒バックナンバー一覧