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『大学図鑑!』が大学選びの疑問にお答えします!
【第7回】 2017年4月27日
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オバタカズユキ[監修]

慶應大と千葉大の医学部で悩んでいます。
卒業後の可能性や収入は大きく違いますか?

初刊行から19年を数えるロングセラー『大学図鑑!』の2018年版発売を記念し、監修者オバタカズユキさんがみなさんから寄せられた“大学選び”の悩みについて、独断と偏見で答えちゃいます。今回は、慶應大医学部と千葉大医学部で、医師になってからの可能性や待遇に違いがあるのだろうか?というご質問です!(なお、本連載での回答は、就職や夢の実現を保証するものではなく、一意見として参考にしてください。受験生ご本人、親御さん、ご親戚からのご質問をお待ちしております!)

Q. 都内江戸川区に住む高3です。慶應大学医学部か千葉大学医学部を目指しています。ごく一般的なサラリーマン家庭なので家計への負担を考えると、受かれば千葉大に進学しようと思います。でも、学閥?などの話を聞くと、奨学金をとれるよう頑張ってでも慶応に進んだほうが、医師になってからの可能性や収入に相当有利なものなのでしょうか。まだ受かる前から捕らぬタヌキの……ですが、参考に教えていただければ有難いです。

どの大学の医学部かによって、医師になってからの可能性や収入に違いがいろいろあるのだろうか?

A. 慶應の医学部か千葉大の医学部で迷っている。すごいですね。正直いって、素晴らしいし、羨ましい。ちょっと雑談になってしまいますが、はじめに個人的な話をさせてください。

 今夏に53歳となる私は、千葉の3番手位の県立進学校を劣等な成績で卒業し、一年間の浪人を経て、上智大学の文学部に志望して入学、そこを卒業しました。高校までまったくと言っていいほど勉強をしていなかったので、そんなもんだろうなあと自分の「学歴」については受け入れてきました。ですが、歳をとるほど、「あのくだらない高校の勉強だって、ちゃんとやっておけば選択肢が広がったのに」と思うことが実は結構あります。

 世間的に最上位とされる大学に行きたかった、という劣等感のようなものとは違います。そうではなく、もっとがっつり勉強をする理系に進みたかったなあ、と感じるところがあるのです。

 より具体的には、医学部に行けば良かった。外科医になりたかった。受験生時代はもちろん、20代で今のライター職に就いてからも、まったくそんなことは考えていませんでした。ところが、30代後半で身近な人が大病を患い、自分の無力さを思い知った時、「俺が医師なら、この手で治してやれたかもしれないのに!」と悔しかったのです。なんか子どもみたいな話ですが、その歳になって、ようやく「やりたかった仕事」が分かったというわけです。

 身近な者をこの手で助けたかった、というだけでなく、その大病の件でいろいろな医師と本気の話し合いをする機会が何度もあり、医師の仕事の世界をちょっとだけ垣間見ることができました。付き添いで何日も病院に通ううち、同じ医師でも診療科によってかなり働き方や雰囲気が違うことも感じられました。

 そんなこんなで、私は外科医に惹かれたのです。あくまで素人目にではありますが、まず外科医の仕事はその成否の白黒がはっきりしている。そして、そのオペや術後の状況によって患者さんの生死がどうなるかわからないことも多く、とても大きな責任を背負う。また、オペは一人ではできないので、内科医や麻酔科医との連携が不可欠で、看護師をはじめとした多くのスタッフの中でチームリーダーとして確固とした自分がないといい仕事はできない。

 そんな職業的特性に、魅力を感じたのです。実際に就いたらそんな甘いものではないと思い知ったでしょうが、あのときは「自分に向いている」と感じました。ライターのような、自分の仕事が誰かの役に立っているのかどうかよくわからない、この世から消えても別にすごく困るものとも思えない、そんな仕事を10年以上やってきて、ある種の行き詰まりを覚えていたので、余計に「隣の芝生」が青く見えたのかもしれません。

 しかし、いまでもなれるものなら、なってみたいのは外科医です。「なりたい」と気づいた30代後半から、もしそれを目指しても、最速で一人前の医師の一歩目を踏めるのは40台後半。それは現実的じゃないな、と冷静に考え、あの時は諦めました。私は自分の過去をあまり後悔しないタチなのですが、「高校までにもっと勉強しておけば良かった~」とちょっと悔しく思いました。

 だから、今回の質問者には、まず反射的に「すごい」「素晴らしい」「羨ましい」という感情が湧いたのです。どんな診療科に進みたいのかは分りませんが、医師はいい仕事だと思います。頑張ってもらいたいものです。

 さて、雑談はこのくらいにして、質問にお答えしましょう。
慶應卒か千葉大卒かで、医師になって以降の可能性や収入がどのくらい違うものか、というお問い合わせでした。

学歴がモノをいう医師の世界のヒエラルキーとは?

 収入は、学部を出た後どのくらい大学の医局に残るか、専門の診療科をどうするか、働く病院は大学病院か、国公立病院か、民間病院か、ずっと勤務医で行くのか、どこかの段階で開業を目指すのかなどなどによって、千差万別です。

 私は、2015年冬に刊行した『医師・医学部のウラとオモテ』(中村正志著・朝日新聞出版)という本の企画・編集協力をしました。著者は、医師向けの人材紹介サービス事業会社の取締役で、同書の出版段階までに300人以上の医師のキャリア設計に携わっていました。

 医師による、医師の世界のガイド本は複数冊ありますが、医師の世界をよく知る第三者によるものはないに等しく、当事者が書いたものより客観的な言及ができているところもあると企画者として自負しています。以下は、その本や、本づくりの過程で得た知見から、思うところを書きます。

 慶應か千葉大か。言わずもがな、どちらも超難関です。東大の理III以外のどこに受かるよりも難しいともいえます。ですけれども、「医師のキャリア」としては、質問者がお感じのように、慶應卒のほうが相当優位かもしれません。

 意外にも思えますが、医師の世界は、一般の会社員の世界よりも学歴がモノを言うところのようです。医学部入試は、国公立だけでなく、私立もみな難関になりました。今の受験生の親が若かった頃は、私大医学部の一部は「金さえあれば行ける」といった見方をされており、実際にそうとしか思えない同級生がそう言われている医学部に進学していたものです。それが今は、空前の医学部人気で、どんなに難度が低いところでも、早慶の理工系学部に入るくらいの学力がないと合格できません。

 それだけ医学部入試の水準が上がったうえで、しかし入試偏差値の違い以上に、各医学部の歴史的なポジショニングが上下関係を決めているそうです。

 国公立大学医学部のヒエラルキーとしては、まず頭抜けた存在として「旧七帝大」とされる北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九大がそれぞれのエリアで圧倒的な影響力を持っています。そして、そこからぐーんと離れて、「旧六医大」とされる千葉大、新潟大、金沢大、岡山大、長崎大、熊本大の医学部が位置します。

 どうせなので全部書きますと、そのまた下に「旧医専」としてくくられる、弘前大、群馬大、東京医科歯科大、信州大、岐阜大、三重大、神戸大、広大、鳥取大、山口大、徳島大、鹿児島大の医学部がきます。そのさらに下に、他の「新設医大」が位置します。

 私立大学医学部のヒエラルキーは、頭抜けた存在として「御三家」の慶應大、東京慈恵医大、日医大が君臨しています。そこからぐーんと離れて、「旧医専など」の岩手医科大、順天大、昭和大、東京医大、東京女子医大、東邦大、日大、大阪医大、関西医大、久留米大がきて、その下に「新設大」の他の大学が位置します。

 どうでしょうか。「旧七帝大」や「御三家」が強いのはいいとしても、そこからぐーんと離れたところに、千葉大医学部は位置しています。国公立では、そのまた下に東京医科歯科大が来ます。

入学時の偏差値とヒエラルキーに相関なし

 大学医学部の入試偏差値は、河合塾のものを『大学図鑑!2018』でも掲載しています(合格可能性50%ラインの下限値)。それによれば、トップは、東大で72.5、次いで東京医科歯科大70.0です。千葉大は67.5あります。「旧帝大」の北大や東北大、名大、九大も67.5です。

 試験制度がけっこう違うので単純に比較はできませんが、私立では慶應大が72.5でトップ、それに東北医科薬科大、国際医療福祉大、自治医大、順天大、昭和大、東京医大、東京慈恵医大、東邦大、日大、日医大、大阪医大、関西医大、産業医大の各医学部が67.5で続きます。

 ご質問の慶應大と千葉大は、入試難度では72.5と67.5で2ランクほど千葉大が低い感じですが、医師の世界のヒエラルキーは、慶應はトップクラスで、千葉大は「旧七帝大」の下のランクとはいえ、ぐーんと格落ちした上位医大という位置づけです。首都圏でちょっと驚くのは、入試難度で東大に次ぐ70.0の東京医科歯科大が、国公立大学医学部ヒエラルキーでは、相当に格落ちした三番手になっていることです。

 ここで言うヒエラルキーの上下の基準は、主要な関連病院の数や教授の輩出数などです。首都圏では東大をトップに、ほかにも私立の「御三家」が幅をきかせており、東京医科歯科大や千葉大の医学部が入るときはどんなに難関でも、卒業後はそれらの陰に隠れてしまい、いまいち影が薄いのです。

 千葉大は、千葉県下ではかなり威光を放っています。しかし、他の首都圏ではそんなに優遇されていません。千葉大出身の医師たちも、千葉県以外ではちょっと自己評価を低めに意識している人がけっこういるとのことです。

 以上、かなりざっくりとした話で、かつ生々しいのですが、お伝えしておきました。収入については前述のとおり、出身大学名よりも他の要因に左右されるため、さほど気になさらなくていいと思います。ただ、大学卒業後の世界での出世や、勤務医で就職する際の選択師の豊富さという点では、千葉大よりも慶應に軍配があがるでしょう。

ただし、学費面はもちろん国立が「お得」

 とはいえ、もうひとつ現実的な条件として、ご存じの通り学費総額はかなり違います。私大医学部の中で慶應は安いほうですし、すごく優秀ならば奨学金制度も充実しています。でも、医学部は、やっぱり国公立が「お得」です。1年間の授業料が他の学部と変わらないのですから、そのメリットはとても大きい。

 私が質問者なら、迷わず千葉大を目指すと思います。千葉大には、外科でレベルの高い診療科が複数ありますし、私は一人前の外科医になれればそれでいいと考えるので、わざわざ受験や経済面で苦労して慶應を目指しはしません。千葉大で十分というか、合格できたら万歳三唱です。

 もうお分かりかと思いますが、医学部に入ってから、医師になってから、自分がどんな風に働きたいのか、どんな医師を目指したいのか。そこをしっかり考えておくことが、大学選びの際にも、とても重要だと思います。そこさえ見えていれば、おのずと受験校は決まってくるでしょう。

 医学部人気の過熱化で、どこもかしこも難関大と化した結果、「勉強ができるから医学部に入ったのだけど、医師になれる自信がない」など適性のミスマッチについて、医学部時代や研修医時代、若手医師時代になってから悩む人がかなり増えています。偏差値世界の上下や、医師の世界でのヒエラルキーよりも、自分の将来像や適性をきちんと見極めることが医学部受験では肝心。そこだけは外さないでください。

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    オバタカズユキ [監修]

    フリーライター、フリー編集者。 著書に『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『だから女は大変だ』(文藝春秋)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)ほか。企画、編集、構成で携わった本は『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)、『国のために死ねるか』(文春新書)、『クラッシャー上司』(PHP新書)など。


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    楽しいキャンパスライフ、生活費や学費などの予算、就職への有利さ・・・・・・など色々気になって、志望校を探したり受験後の合格校選択には迷いがつきもの。そんなとき、『大学図鑑!』監修者として約20年間にわたって各大学や学生さんをつぶさに観察してきたオバタカズユキさんならどう考えるのか? 本連載では、みなさんから寄せられた大学選びの悩みにお答えしていきます。各大学の詳細については是非『大学図鑑!2018』をご覧ください!

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