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遺伝子は、変えられる。 ――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実
【第4回】 2017年5月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
シャロン・モアレム,中里京子

コーヒー、タバコ、緑茶が「遺伝子スイッチ」を変える!?
最新遺伝学でわかった「とっておきの食事法」

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「コーヒー、タバコ、緑茶が遺伝子を変えてしまう!?」――今話題の遺伝子のトピック「エピジェネティクス」が明らかにした驚きの事実。「遺伝学者×医師」シャロン・モアレムによる極上のノンフィクション『遺伝子は、変えられる。』から、最新遺伝学でわかった「とっておきの食事法」について紹介しよう。

コーヒー、タバコ、緑茶で
「遺伝子スイッチ」はどのように切り替わるのか

 ぼくらの人生は、遺伝子だけ、あるいは環境だけ、といった隔絶された状況で、1個の遺伝子だけによって機能しているわけではないことが、明らかになってきている。ゲノムは、ぼくらの行動や食べるものに常に反応しつづける。トヨタやアップルがJIT(ジャスト・イン・タイム方式)の生産体制を採用しているように、遺伝子も常にオンやオフに切り替えられている。そして、これは遺伝子発現を通して行われる。遺伝子発現とは、言ってみれば、遺伝子が何らかの要因によって誘導されて、ある「製品」をより多く、またはより少なく作るようになることだ。

 人々の暮らしが、興味深い方法で遺伝子に影響を与える例は、コーヒーを飲む喫煙者に見ることができる。あなたは、タバコを吸う人は、なぜあれほど大量のコーヒーを問題なく飲むことができるのだろう、と不思議に思ったことはないだろうか。

 その答えは、遺伝子発現に関係がある。

 ぼくらの身体は、さまざまな毒を分解するのに、同じCYP1A2遺伝子を使っている。タバコにはさまざまな有害成分が含まれているため、遺伝子に行動を起こさせる、とてもうるさい警戒警報を鳴り響かせる。それを考えれば、喫煙がCYP1A2遺伝子を誘導する(つまりオンにする)という事実は意外なことではないだろう。この遺伝子がオンになればなるほど、身体はコーヒーのカフェインを分解しやすくなる。とは言っても、誤解しないでほしい。ぼくは何も、コーヒーをたくさん飲んでも夜眠れるようにするために、タバコを吸いはじめなさい、と言っているわけではない。ぼくが言いたいのは、喫煙によって、身体がカフェインを分解する方法が変わり、遺伝子的にカフェイン代謝がゆっくりだった人も、代謝の速い人に変わってしまう、ということだ。

 ともかく、もしコーヒーがあなたの遺伝子構造になじまないとしたら、緑茶を楽しめばいい。けれども、腰を下ろして「センチャ」や「マッチャ」を楽しむ前に、ちょっと思い出してほしい。ぼくらがすることは、すべて、遺伝子に何らかの影響を与えるということを。

 緑茶の場合は、ある種のがんを防ぐ可能性が示唆されている。最近、「エピガロカテキン-3-ガラート」と呼ばれる、緑茶に含まれる強力な化学物質を乳がんの細胞に投与した研究者たちが、ふたつの重要な結果を手にした。乳がん細胞がアポトーシス(細胞死)と呼ばれる細胞のプロセスによって自滅しはじめ、自滅しなかった乳がん細胞も成長速度が鈍くなっていたのである。いまいましいがん細胞に対する新たな治療法を探しているなら、こうした反応こそ、まさに望んでいるものと言えるだろう。

 がん細胞がどのようにしてふるまいを変えるように促されたのかが判明したとき、エピガロカテキン-3-ガラートは、ポジティブなエピジェネティック変化――DNAをオンまたはオフにすることによって遺伝子発現の調節を助ける変化――を促すことができるという事実が明らかになった。これらは、細胞が身体の「集産主義的バイオロジカル・マニフェスト」に従うことを拒否したときに、それらをコントロールするうえで欠かせない重要なステップだ。なぜなら、細胞が協力して作業することをやめ、悪質な狼藉に打って出ると、がんが発生するからだ。

 ぼくらが食べたり、飲んだり、果ては吸ったりするものと遺伝子の相互作用に関する研究が進むにつれ、こうした相互作用が健康の維持にいかに重要であるかは、ますます明らかになってきている。

 そして、同じゲノムを受け継ぎ、似たような食生活を送っている一卵性双生児の研究から、栄養学のパズルにおける重要な未解明部分が判明しつつある。

 だからこそ、ここであなたに、ご自分の腸内微生物叢(いわゆる腸内フローラ)について知ってもらいたいのだ。

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シャロン・モアレム(Sharon Moalem MD, PhD)

受賞歴のある科学者、内科医、そしてノンフィクション作家で、研究と著作を通じ、医学、遺伝学、歴史、生物学をブレンドするという新しく魅力的な方法によって、人間の身体が機能する仕組みを説いている。ニューヨークのマウント・サイナイ医学大学院にて医学を修め、神経遺伝学、進化医学、人間生理学において博士号を取得。その科学的な研究は、「スーパーバグ」すなわち薬が効かない多剤耐性微生物に対する画期的な抗生物質「シデロシリン」の発見につながった。また、バイオテクノロジーやヒトの健康に関する特許を世界中で25件以上取得していて、バイオテクノロジー企業2社の共同創設者でもある。
もともとはアルツハイマー病による祖父の死と遺伝病の関係を疑ったことをきっかけに医学研究の道に進んだ人物で、同病の遺伝的関係の新発見で知られるようになった。希少疾患や遺伝病への深い洞察は、本書においても大きく活かされている。
著書に、『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーリストに列せられた『迷惑な進化――病気の遺伝子はどこから来たのか』(NHK出版)、『人はなぜSEXをするのか?――進化のための遺伝子の最新研究』(アスペクト)があり、35を超える言語に翻訳されている。また、医学誌『ジャーナル・オブ・アルツハイマーズ・ディジーズ』のアソシエート・エディターも務めた。
さらに彼の研究は広く一般でも注目されており、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ニュー・サイエンティスト』誌、『タイム』誌などに掲載されたほか、テレビ番組の『ザ・デイリー・ショウ・ウィズ・ジョン・スチュワート』『ザ・トゥデイ・ショウ』などでも取り上げられている。
http://sharonmoalem.com/

中里京子(なかざと・きょうこ)

翻訳家。20年以上実務翻訳に携わった後、出版翻訳の世界に。訳書に『依存症ビジネス』『勝手に選別される世界』(ともにダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』『ぼくは科学の力で世界を変えることに決めた』(ともに講談社)、『食べられないために』『ファルマゲドン』(ともにみすず書房)、『おいしさの人類史』『描かれた病』(ともに河出書房新社)、『チャップリン自伝』(新潮社)など。


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