ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
遺伝子は、変えられる。 ――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実
【第3回】 2017年4月26日
著者・コラム紹介バックナンバー
シャロン・モアレム,中里京子

いじめやテロは、遺伝子をも傷つける!?
子供のために知っておきたいエピジェネティクスの話

1
nextpage

「母親の食習慣が子供の遺伝子を変えてしまう」――今話題の遺伝子のトピック「エピジェネティクス」が明らかにした驚きの事実。「遺伝学者×医師」シャロン・モアレムが遺伝子の最先端を描いた極上のノンフィクション『遺伝子は、変えられる。』から、いじめと遺伝子の関係、そしてストレスが生まれ来る子供にどんな影響を与えるのか、ご紹介しよう。

いじめのトラウマは遺伝子をも傷つける

 以前(連載第1回)、中学1年生に戻ってみてほしい、と頼んだことを覚えているだろうか。その時点まで遡ると、できるなら思い出したくない嫌な思い出や出来事を思い起こしてしまう人もいるだろう。正確な数字はわからないが、あらゆる子供の少なくとも4分の3は、人生のある時点でいじめを経験するという。ということは、あなたも、大人になるまでに、そうした不運な経験を受け取る側だった確率は高いだろう。そして、すでに親になった人にとっては、わが子のいじめの経験や、学校内外の安全に関する心配は増える一方に違いない。

 ごく最近まで、ぼくらはいじめにまつわる深刻で長期にわたる悪影響を、主に心理学的な面から考えて語ってきた。いじめがとても深い精神的な傷痕を残すことについては、異論を唱える人はいないだろう。一部の子供や青少年が被る計り知れない精神的苦痛は、自分を傷つけることを考えたり、実際にそんな行為に走らせたりすることがある。

 しかし、もし、いじめられた経験が、ぼくらに深刻な心理的負担を負わせること以上の問題をもたらすとしたら? この質問に答えを出すために、イギリスとカナダの教師たちのグループは、「そっくりな双子」、つまり一卵性双生児の複数の双子のペアを5歳から追跡調査することにした。まったく同じDNAを持っていることに加えて、研究に参加した各双子のペアは、その時点まで一度もいじめられたことがなかった。

 スイスの実験でマウスが被った扱いとは違い、今度の研究者たちは、研究対象にトラウマを植えつけることが許されていなかったと聞いたら、読者のみなさんはほっとされるかもしれない。とはいえ研究者たちは、他の子供たちに科学的な汚れ仕事をさせたのだった。

 何年間もじっと待ちつづけたあと、科学者たちは、片方の子だけがいじめにあった双子のペアを訪ねた。そして、そのあいだの双子の人生を調べた結果、次のことが判明したのである。双子が12歳になっていたそのとき、5歳のときにはなかった驚くべきエピジェネティックな変化が生じていたのだ。大きな変化が生じていたのは、いじめにあったほうの子供だけだった。

 単刀直入に言うと、いじめには、青少年に自傷傾向を引き起こす危険があるだけでなく、遺伝子の働き方と遺伝子が人生を形づくるやり方を変えてしまうことに加え、将来の子孫に引き継ぐものまで変えてしまう危険性があるということが、遺伝子的にはっきりと証明されたわけだ。

 この変化を遺伝子のレベルで見るとどうなっていたかというと、平均的に言って、いじめられたほうの子では、次のことが起きていた。SERT(サート)遺伝子(セロトニン・トランスポーターと呼ばれ、神経伝達物質セロトニンがニューロンに移動するのを助けるタンパク質をコードする遺伝子)のプロモーター領域で、DNAのメチル化の量が有意に多くなっていたのだ。この変化は、SERT遺伝子から作られるタンパク質の量を減少させると考えられている。つまり、メチル化の量が多くなればなるほど、SERT遺伝子が「オフになる」割合も増えるのだ。

 こうした発見がなぜ重要かと言うと、エピジェネティックな変化は一生残る可能性があると考えられているからだ。言い換えれば、たとえあなた自身がいじめられたことをよく覚えていなくても、あなたの遺伝子はちゃんと覚えているのである。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
  • ダイヤモンド・オンライン 関連記事
    借りたら返すな!

    借りたら返すな!

    大久保 圭太 著

    定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2017年7月

    <内容紹介>
    会社がつぶれないためには、会社に「お金」があればいい。つぶれない会社に変わるための「銀行からの調達力を上げる7つのステップ」や「儲ける会社がやっている6つのこと」、「つぶれそうな会社でも、なんとかる方法」などを紹介。晴れの日に傘を借りまくり、雨になったら返さなければいい、最強の財務戦略を指南する。

    本を購入する
    ダイヤモンド社の電子書籍

    (POSデータ調べ、8/6~8/12)



    シャロン・モアレム(Sharon Moalem MD, PhD)

    受賞歴のある科学者、内科医、そしてノンフィクション作家で、研究と著作を通じ、医学、遺伝学、歴史、生物学をブレンドするという新しく魅力的な方法によって、人間の身体が機能する仕組みを説いている。ニューヨークのマウント・サイナイ医学大学院にて医学を修め、神経遺伝学、進化医学、人間生理学において博士号を取得。その科学的な研究は、「スーパーバグ」すなわち薬が効かない多剤耐性微生物に対する画期的な抗生物質「シデロシリン」の発見につながった。また、バイオテクノロジーやヒトの健康に関する特許を世界中で25件以上取得していて、バイオテクノロジー企業2社の共同創設者でもある。
    もともとはアルツハイマー病による祖父の死と遺伝病の関係を疑ったことをきっかけに医学研究の道に進んだ人物で、同病の遺伝的関係の新発見で知られるようになった。希少疾患や遺伝病への深い洞察は、本書においても大きく活かされている。
    著書に、『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーリストに列せられた『迷惑な進化――病気の遺伝子はどこから来たのか』(NHK出版)、『人はなぜSEXをするのか?――進化のための遺伝子の最新研究』(アスペクト)があり、35を超える言語に翻訳されている。また、医学誌『ジャーナル・オブ・アルツハイマーズ・ディジーズ』のアソシエート・エディターも務めた。
    さらに彼の研究は広く一般でも注目されており、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ニュー・サイエンティスト』誌、『タイム』誌などに掲載されたほか、テレビ番組の『ザ・デイリー・ショウ・ウィズ・ジョン・スチュワート』『ザ・トゥデイ・ショウ』などでも取り上げられている。
    http://sharonmoalem.com/

    中里京子(なかざと・きょうこ)

    翻訳家。20年以上実務翻訳に携わった後、出版翻訳の世界に。訳書に『依存症ビジネス』『勝手に選別される世界』(ともにダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』『ぼくは科学の力で世界を変えることに決めた』(ともに講談社)、『食べられないために』『ファルマゲドン』(ともにみすず書房)、『おいしさの人類史』『描かれた病』(ともに河出書房新社)、『チャップリン自伝』(新潮社)など。


    遺伝子は、変えられる。 ――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実

    食事、仕事、人間関係、環境……
    何気ない日常が、遺伝子を変える!

    医師に勧められた「健康的な食生活」でがんになった男、
    ある食べ物と遺伝子の組み合わせでADHDになった男の子など、
    遺伝子が織りなす不思議なストーリーと、
    最新科学「エピジェネティクス」のすべてを語り尽くした『遺伝子は、変えられる。』から、
    「遺伝=運命」という方程式を打ち破る、知の最前線をご紹介します。

    「遺伝子は、変えられる。 ――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実」

    ⇒バックナンバー一覧