ピーター・F・ドラッカーの本を、「おカネ儲けのノウハウ満載」かと期待して読むと、がっかりする。しかし、「社会や企業とは何か」「仕事とはどういうことか」「ビジネスマンとしてどう生きるべきか」などについて、ドラッカーは本質を語ってくれる。50年前、60年前に書かれたものであっても、まったく色褪せない。
ドラッカーのほとんどの著作の翻訳を手がけ、ドラッカーから最高の友人・翻訳家と信頼された上田惇生氏は、こう話していた。
「ドラッカーは至極、地味で当たり前のことをやろうと言っているんです。企業は世の中が必要としている財・サービスを提供する、そこで働く人たちに生き生きと働いてもらう、と。でも、ものすごく大切なことを言っていると気づかない人が多いんです」
ドラッカリアンとして知られるユニクロの柳井正会長兼社長も、こう語っている。
「ドラッカーの本というのは、決して奇をてらったことは書いてありません。『当たり前のことにもっと気をつけなさいよ』と言っています。あまりピンと来なくても、とりあえず1冊でもいいから最初から最後まで読んでみてほしい。ドラッカーの言葉を思い出すときがいつか必ず来ます」
ドラッカーは「いい世の中になるには、一体なにが必要なんだろう」という問いからスタートし、後にマネジメントの父と呼ばれるようになった。現代のような組織社会においては、組織の運営のされ方いかんによって世の中はよくなる、とマネジメントを分析・研究した。そもそもの問題意識がまったく違う。だから、ずっと価値を持ち続けているのである。
特集「ドラッカー」は、こうした深くて広いドラッカーワールドを歩くためのガイドである。
まず、「Part1 ドラッカーが語りかける」で、ドラッカーが授けた直弟子への進路アドバイス、柳井正会長兼社長がかみしめる言葉などを通して、ドラッカーの世界に足を踏み入れていただこう。
「Part2 ドラッカーを活用する」では、被災地で奮闘するNPOや医師集団、それに企業の活用事例から、ドラッカーの教えがさまざまな現場で根づき、実践されている様をレポートする。
続いて「Part3 ドラッカーが全てを教える」では、ドラッカーマネジメントの背景にある経営哲学を探り、さらに会計や教育といった分野でも、ドラッカーが最良のテキストになることをご紹介する。
そして、「Part4 ドラッカーのマネジメント」では、『もしドラ』主人公の教科書ともなった『マネジメント【エッセンシャル版】』のそのまたエッセンスを、編訳者である上田惇生氏が教えてくれる。
日本が転換期に立つ今こそ、深く、人間くさいドラッカーの言葉が、わたしたちの支えとなるはずである。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 小栗正嗣)