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原子力発電所の国営化が現実味を帯びてきた。原発事業のリスクは、もはや電力会社が取ることのできる範囲を超えたからだ。
福島第1原発の事故を受けて、政府は国際原子力機関(IAEA)に約750ページもの報告書(暫定版)を提出した。そこに記されているのは事故の経過や当時の対応だけではない。「教訓」と称した28項目の安全対策から国の原発への強い関与を表明している。
たとえば「アクシデントマネジメント」。これはもともと設計基準において「起こりえない」とされた、今回の全電源の喪失のような事態への対応を指す。これまでもこうした想定そのものはなされており、対策は電力会社の自主性に委ねられてきた。
これに対して、報告書は電力会社の自主的な取り組みでは不十分だとし、国が法規制に踏み込むことにした。施設の配置をずらしたり、津波にも耐えうる水密性を確保したりする対策も求めている。
現実的には、報告書に記された以上の対策を電力会社が求められるのは避けられない。
たとえば、関西電力は津波などの緊急対策で2年間400億円を投じると決めたが、原発のある福井県はそれで安全とは認めていない。報告書では触れられていない、運転40年を超えた古い原発への抜本対策を事実上、求めている。
「原発は絶対安全」という前提が崩れた以上、地震だけではなくテロや航空機墜落、竜巻、噴火、地滑りなど、あらゆる事故への対策を要求されることになりそうだ。
安全対策だけではない。事故時の賠償制度の欠陥も、原発事業リスクを途方もなく大きくしている。
今回、東京電力は原子力損害賠償法に基づき最大30兆円ともいわれる賠償金を負担する。国は1原発1200億円を補償し、残りは賠償機構を新設し、電力会社から負担金を集めて資金援助する枠組みとする予定だ。一義的な責任を東電に負わせつつ電力供給のため債務超過にはさせない狙いがある。
かたや原子力を推進してきた国の責任は不明確なまま。株主や金融機関、債権保持者などについても責任が及ばない。要は、電気料金の値上げを原資に数十年にわたり賠償支払いをさせるために、東電を生殺しにするわけだ。もはや事業資金を集めて投資し利益を生み成長するという民間企業の体をなさない。
しかしながら、かくも大きな安全対策コストと賠償リスクは国でしか負えないことははっきりしている。原発国営化が現実味を帯びるのはそのためだ。
報告書策定を主導した細野豪志首相補佐官は「国民的な議論で決めることだが(国営化を)個人的には理解している」と言う。事実、電力会社の原子力部門を集めて統合するという腹案もある模様。国ももはや巨大リスクから逃れることはできない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)