“自由市場資本主義”信奉者にとって厳しい現実がある。リーマンショック以降のアメリカの自信喪失と迷走、そして中国やロシアに代表される「国家資本主義」の興隆だ。二つのシステムの衝突は歴史の必然なのか。それとも融合あるいは共存は可能なのか。日本はどちらに向かえばいいのか。地政学的リスク分析の第一人者で、アメリカや欧州諸国、中国、ロシアなど世界各国の政府中枢と太いパイプを持つ政治学者のイアン・ブレマー博士に話を聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)
――国家資本主義は学者によって定義が異なるが、ひとつの定義に収斂できるのか。
地政学的リスク分析を専門とするアメリカのコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長で、ワールド・ポリシー研究所の上級研究員。スタンフォード大学で博士号取得後、世界的なシンクタンクであるフーバー研究所の研究員に最年少25歳で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。グローバルな政治リスク分析には定評があり、ロシアのキリエンコ元首相やアメリカの民主・共和両党の大統領候補者らに助言を行ってきた。2007年には、ダボス会議を主催している世界経済フォーラムの若手グローバル・リーダーに選出されている。近著は、「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』日本経済新聞出版社刊)。
ひとつの方法で定義できる。それができなければ、モデルに問題があるということだ。私は、国家資本主義を「国家が経済のPrincipal Actor(主役)として政治的目的を果たすために市場を利用する究極的な経済システム」であると定義している。
もちろん、(原油などの)コモディティや土地が主である国もあれば、中国のように労働が主である国もある。ただ、すべてに共通するのは、“国家が主役である”という原則だ。一方、自由市場では主役はあくまで多国籍企業や民間セクターだ。
――国家資本主義は、かつての共産主義がそうであったように、本質的には自由市場資本主義と共存できないシステムなのか。
こう答えよう。国家資本主義は、自由市場資本主義と競合するシステムだ。より正確に言えば、国家資本主義は自由市場資本主義と競合できるときには、競合する。つまり、国家資本主義の国であっても、小規模で弱体化していれば、自由市場と競合したくてもできない。
中国は20年前も国家資本主義だったが、自由主義と競合していなかった。どうしてかといえば、欧米の多国籍企業が巨大な資金とテクノロジーのすべてを握っていたためだ。しかし今、中国は(欧米と)同等レベルのパワーを持ち、競争力を身につけた。
同じことは産油国についても言える。産油国は自分たちで石油資源を地中から掘り出す力を身につけたことで、欧米の多国籍企業と競合できるようになった。今日では、世界の15大石油会社のうち13社までが実質国営だ。欧米系、民営系はたったの2社だ。このことを考えれば、2つのモデルの根本的な競合性が理解できるというものだろう。