シミュレーションの「結論」は
決まっていることが多い!

 雑誌の編集者によると、住宅の「賃貸vs購入、どちらがトクか」といった記事は読者の関心が高く、人気が高いそうだ。ひと目でわかるグラフを掲載したいので、シミュレーションしてほしいと依頼されることがたびたびあるが、基本的にお断りしている。

 依頼を受けない理由は3つある。まず、依頼段階で試算結果の「希望」があることが多いから。不動産購入の情報誌だと「購入がトク」となる試算結果が欲しいようだ(依頼する人はストレートには言わないが「まさか、賃貸がトクになる結果にはならないですよね?」と婉曲に“希望”が伝えられる)。結果ありきの試算はできるはずもないので、お断りするしかない。

 2つ目の理由は、試算条件次第で結果が大きく異なるから。購入する物件の価格帯、持ち家の固定資産税額、賃貸の場合の家賃、引っ越しの頻度など、条件設定を少し変えるだけで、「購入がトク」にもなるし「賃貸がトク」にもなる。試算結果に作り手のフィルターがかかるのは避けられないのだ。

 3つ目の理由は、人の寿命はわからないから。試算をする際は、「平均寿命の83歳まで生きたとする」など前提条件を設定することになるが、実際にはその前に亡くなるかもしれないし、100歳まで生きるかもしれない。何歳まで生きることになるのかは自分で決められないし、誰にもわからないので、平均寿命での試算は非現実的だ。

 断る理由として、何歳まで生きるかわからないからと言うと「では、何歳が損益分岐点なのかを出してほしい」とあきらめずにお願いされたことがあったが、損益分岐の年齢がわかったところでそれに合わせた人生を送るわけではないから、まったく意味はない。再び、断りの理由を言う。

 以上の理由から「賃貸vs購入、どちらがトクか」のシミュレーションそのものは、あまり意味がないと考えている。そうはいっても、住宅を買う、買わないで悩んでいる人は少なくないだろうから、今回はみなさんが自分なりの結論を出す際の考え方のポイントをお伝えすることにする。