東日本大震災と福島第1原発の事故発生によって、東京電力の株価が大荒れになっている。震災前は2100円台で推移していたが、事故発生から急落し、一時は148円の安値を付け、現在は300円前後で取引されている。

 それを理由に東電を特別に救済するのは不適切だが、海江田万里経済産業相の言うとおり、老後に備える資金などで、東電株に投資していた個人は少なくない。筆者の周りにも、「電力会社なので経営が安定しており、配当を目当てに買っていたのですが、ずいぶんやられました」と嘆く高齢者がいる。

 電力会社は、地域独占でコストに応じた価格設定ができるため、安定した企業の代表格だった。

 しかし、今回、事故が起こってみると、原子力発電所のリスクが大きいことや、社債や銀行借り入れなどの有利子負債が大きいことなど、意外にリスクの大きな投資対象だったことがわかる。

 電力会社に限らず、未来永劫にわたる安定を約束されたビジネスなどない。しばしば「ディフェンシブストック」(業績変動の小さい安定的な銘柄の意味)などと呼ばれる、電力、通信、食品などの企業も例外ではない。事故や制度の変化、技術の変化などによって、ビジネスの価値は急変しうる。

 投資の世界では、どんなに徹底的に分析しても「絶対安心」は得られない。

 投資家の側でできることで、かつ必要なことは「分散投資」だ。東電株であろうと、別の会社の株式であろうと、1銘柄の投資に老後の生活を賭けるようなことをしてはいけない。

 この点で最も心配なのは、勤め先の会社の株式に投資している人だ。多くの会社が社員持ち株会を持っているし、確定拠出年金の選択肢として自社株に投資できる仕組みを用意している会社もある。