民主党政権が鳴り物入りで開始した「子ども手当」は、東日本大震災の復興財源確保のため、本格的な制度の見直しが検討されている。廃止・制限などにより不足している復興財源を補うことはできるが、回復傾向にある合計特殊出生率に冷水を浴びせかねず、一層深刻さを増す少子化問題や財政構造が厳しい社会保障問題を解決困難にする恐れもある。では今後、財源確保が厳しくなるなか、少子化対策はどのように行われるべきか。内閣府「少子化社会対策推進会議」委員も務める東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長・渥美由喜氏に、少子化問題解消のために政府が行うべき施策、そして企業や個人に求められる対策を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

日本の子育て支援はOECD加盟39ヵ国38位
「子ども手当」再考前に年金給付の見直しを

――東日本大震災の復興資金の捻出先の1つとして「子ども手当」が挙げられ、同制度の見直しが急務となっている。支給額の減額や所得制限、廃止などが囁かれる中、このタイミングでの同制度見直しをどう捉えているか。

“所得制限”は晩婚晩産・共働き世帯に負のメッセージ<br />「子ども手当」見直しがもたらす少子化問題の深刻<br />――東レ経営研究所 渥美由喜 <br />ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長に聞くあつみ・なおき/東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長。1968年生まれ。専門は人口問題、社会保障、労働雇用。内閣府の「少子化社会対策推進会議」委員も務める。著書に、『少子化克服への最終処方箋』(共著)、『イクメンで行こう!』等がある。

 現在、日本の人口ピラミッドは、逆三角形で不安定な状態である。それを何とか安定させようとするのが、子ども・子育て支援の意義である。しかし、「子ども手当」などで子育て支援に関する財政支出を先進国並みにする動きが高まっていた最中、震災によって社会保障制度改革の“足腰”の部分が見直されるのはタイミング的に最悪だ。

 もちろん震災対応は必須であり、子ども手当がその財源とされやすいのは理解できる。ただその前に、我が国の社会保障給付のなかで非常に手厚い高齢者手当である年金制度にメスが入れられるべきである。実際、日本の高齢者給付に関する支出額(GDP比)は8.8%(OECD平均6.0%)で、OECD加盟39ヵ国中7位と上位だ。子ども手当に所得制限をかける案も出ているが、年金こそ所得制限をかけるべきであるし、支給開始年齢もさらに引き上げるべきではないだろうか。にもかかわらず、現在はあまり整合的ではない議論がなされているように感じる。

――「子ども手当」「高校無償化」などを大々的に打ち出した民主党政権によって、子育て支援は改善されたといえるだろうか。

 民主党が掲げた「子育て・教育を社会全体で支える」という理念は正しい。今まで、年齢制限・所得制限がある児童手当の受給世帯以外は、子育てへのサポートが何もない感覚が強かった。このことからも、これら施策で子育て支援環境は改善されたといえるだろう。しかし、方向性はよかったとはいえ、もう少し賢いやり方があったのではないか。