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集中スイッチとしての「耳栓」

 勉強する環境の話でよく話題にあがるのが周囲の「音」の影響です。

 適度なざわめきがあったほうがいいとか、何もないよりはある種の音楽が流れていたほうがよいとか、さまざまな研究が行われているようです。

 しかし記憶に限定すると、何かを覚えるタイプの勉強には静かな環境がふさわしいというのは間違いないようです。

 これは私も実感しています。というのは、私を含め世界記憶力選手権に出るような選手の多くが、耳栓やイヤーマフ(騒音環境でかけるヘッドホン状の防音具)、またはノイズキャンセル機能が付いているヘッドホンなどを使用しているからです。

 記憶競技では競技中、自分の頭の中の世界に浸り切る必要があります。

 膨大な量の記憶をするために選手たちは頭の中の「記憶の宮殿」に記憶を保管し、思い出すときにはそのイメージの中で歩き回り記憶を再現していきます。

 それには高度な集中力が要求されるため、ほんのわずかでも集中の妨げになるようなノイズが入り込む可能性をあらかじめ、排除しておきたいのです。

 ここまで極端ではないにしろ、ひとりのときの勉強も自分の世界に入り込む必要があるという意味では競技中と同様です。

 勉強でもなるべくたくさん、いわゆる「ゾーン」の状態に入りたいものです。それには、勉強の環境には集中の邪魔になる要素をできるだけなくしたほうがいいでしょう。

 そして、防音の目的以外にも勉強時の耳栓をおすすめする理由があります。

 最近スポーツの世界では、「ルーティーン」という言葉をよく耳にします。

 これは選手が競技に入る直前に行う「決められた一連の動作」のことを指すのですが、これを取り入れている有名スポーツ選手は数多く存在します。

 多くの選手がルーティーンを持つ理由は何なのでしょうか?

 ルーティーンは、練習どおりのパフォーマンスを本番で再現するための方法としてとても有効なのです。プレイ前の行動をパターン化することで一つのリズムが生まれ、呼吸も心理状態も安定し平常心が保てることにより、いつもどおりのプレイができることにつながるのだそうです。

 つまり日頃から繰り返しルーティーンを行うことによって、パブロフの犬の条件反射のように自動的に集中モードに入れる訓練をしているということです。

 これも勉強に応用が利きそうですね。

 耳をふさぐという行為を、記憶モードのルーティーンにしてしまえばいいのです。

 記憶が必要な科目の勉強のときには、記憶モードに入るためのルーティーンとして耳栓をつけるのです。もちろんヘッドホンでも構いません。

 毎回このルーティーンを行うことで、それをつけると自動的に脳が記憶モードに切り替わるように脳をしつけるというわけです。

 ただしこれらのアイテムを使うのは何かを覚える、つまり知識をインプットする学習時に限ってとし、問題を解いたり小論文を考えたりといったアウトプット型の学習のときは外したほうがよいのです。

 なぜなら、クリエイティブな作業のときはある程度のざわめきがある環境のほうが適しているからです。あくまで記憶モードの切り替えスイッチとして利用しましょう。