「現在のメディアを取り巻く状況は1920年代に似ている」とアメリカのコロンビア・ビジネス・スクールでメディア経営の講義を行うエリ・ノーム教授は言う。

コロンビア・ビジネス・スクールのエリ・ノーム教授(右)と筆者
コロンビア・ビジネス・スクールのエリ・ノーム教授(右)と筆者

 ちょうどラジオという新しいテクノロジーが出現して、有力な新聞が淘汰された時代を彷彿させるというのだ。これは決してアメリカだけの話ではないのではないか。

 日本でも、インターネットの総広告費がついに雑誌広告を追い抜き、今や新聞広告を視野に収めつつある。

 新聞業界も、このような動きに決して手をこまねいている訳ではない。朝日、読売、日経を各々購読している読者は1月31日木曜日の朝刊を広げてみて、普段は載るはずのないライバル紙の論説(主に社説を論じる部門)トップが顔を揃えていて違和感を感じたのではないだろうか。

 週刊ダイヤモンドが昨秋に新聞特集を掲載した際にスクープした3社の頭文字を取って「ANY」と呼ばれている提携で共同ウェブの開発が決まった。その名も「あらたにす」がついにベールを脱いで開設したことを告知するための特集紙面だったのだ。

 ここで日本のメディア経営の特色と状況を改めてみてみよう。世界でも類を見ない日本独特といっていい特色としては、

(1)全国紙5紙と基本的に各県1紙の寡占業界
(2)新聞社が系列放送局を傘下に収める共存体制
(3)様々な法律に守られた規制業界

 の3つが挙げられるのではないだろうか。これらの寡占、規制、放送との共存によって、新聞業界は100年以上にも亘って時代を謳歌してきた訳だ。

ANYは全国紙の安全保障条約か

 しかし、どんな産業も一見強固な業界に見えても綻びは出てくるものだ。特に成功体験が強烈なほど綻びに気付いても戦略転換できないというのがハーバード・ビジネス・スクールクレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」である。

 では、一見、強固な体制と思われた新聞業界にどのようなことが起きているのかということだ。