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野口悠紀雄 未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか

復興財源に何を選択するかで、
マクロ経済への影響は大きく異なる

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第22回】 2011年7月21日
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 これまで、貿易のミクロ的側面について見てきた。以下では、貿易や復興財源に関するマクロ的側面を見よう。マクロ的な条件は、直接目に見えるものでないので、分かりにくい。だから人々の関心をひかないのである。

 しかも、マクロ経済的な問題は、その影響が多くの場合間接的であるために、緊急度が感じられず、軽視されることが多い。

 例えば、財源選択の問題に関して、政府にとって最大の問題は、実際に財政収入が得られるかどうかだ。それが経済に与える影響は二義的なものとしてしか認識されない。

 課税される側から見れば、課税によって自分の生活や事業がどうなるかが、最大の問題だ。だから、経済界は法人税減税を求めるだけだ(それにさまざまな理由はつけるが)。しかし、復興財源の選択が経済にどのような影響を与えるかは、今後の日本経済にとって重要な意味を持つ。

 とりわけ、震災後の日本経済は全体として強い供給制約に束縛されているので、マクロ的条件を勘案することが大変重要である。

 それにもかかわらず、経済全体の供給制約を無視した議論が、きわめて多い。例えば、「日本経済は、今年の秋ごろからV字回復する」という意見がある。しかし、これは自動車生産という経済の一部だけを見ている議論だ。震災によって損壊したサプライチェーンは、最近時点になってかなり復旧したから、「今後は自動車生産を中心として生産活動が回復し、それが輸出を拡大させて、日本経済を回復させる」とされるのだろう。

 しかし、経済は、ある部門の条件が回復しただけで回復するわけではない。現代の経済活動は複雑に関連しながら行なわれているので、ある部分に制約が残れば、それがボトルネックとなって、他の部門の生産活動拡大が阻害される。

 震災直後から日本経済にとっての大きな供給制約となってきたのは、自動車生産などにおけるサプライチェーンの損傷である。今後の日本経済にとって大きな制約条件となるのは、電力に関連する諸問題である。電気は現代のあらゆる経済活動で必要とされるので、この制約がある限り、経済全体の拡大は制約されることとなる。

 今年の夏には、電力制約を回避するために、輪番操業が実施されている。これは、自動車生産を始めとする多くの生産活動に対して大きな制約となっているはずだ。

 電力制約は終戦直後を別とすれば、いままで経験したことがなかったものだ。石油ショックも供給制限だが、それとは少し違う。しかも、世界の中で日本だけが影響を受けている。

 したがって、それに対する対応も、必ずしもうまくできているとは言えない。このため、脱原発を選択するのか否かなど、将来への方向付けもはっきりせず、将来への不確実性が高くなっている。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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