
「まいばすけっと」のパート時給が1800円――。非正規従業員の募集条件に異変が起き始めています。もしかすると今後、フルタイムで働けば「年収400万円」も視野に入る「勝ち組非正規」が生まれるかもしれません。一方で、多くの企業で正社員の賃金が伸び悩んでいる現状も。なぜ、このような“逆転現象”が起きているのでしょうか。それは、単なる人手不足だけが原因ではありません。本記事では、若者人口の激減、「年収の壁」の制度変更といった構造的な要因を読み解きます。日本の雇用常識を根底からひっくり返す「エゲツない未来」の正体に迫ります。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
「時給2000円」が生死をわける…
中小零細に襲いかかる“エゲツない未来”
今年10月に行われる最低賃金の改定に注目が集まっています。2024年度の最低賃金は東京都が1163円と全国最高に設定され、全国平均も1055円と大幅に引き上げられました。
一部の政党は最低賃金を今すぐ1500円に上げるよう声を挙げていますが、そのような変化が起きると中小零細企業が倒産することが危惧されていて、非正規労働者の賃金を上げる動きは少しずつしか進められなかったのがこれまでの実情でした。
ところがこの動きが別の力学でも変わり始めています。
一昨年に群馬県の明和町にコストコが開業しました。私も経済評論家として取材させていただいたのでよく覚えているのですが、話題になったことのひとつがコストコの時給です。アルバイト・パートの時給が1500円~(現在の募集では1540円~2100円)と、群馬県の近隣地域の相場を大きく上回っていたのです。
ちなみにコストコの試食販売のスタッフは派遣会社で雇うので、上記のような直接雇用とは状況が異なるのですが、そういった派遣スタッフでもコストコに派遣されると時給はかなりの優遇がなされます。
コストコは群馬明和倉庫店に限らず、全国的にその地域のパート賃金と乖離していることが開業の都度話題になります。同様にIKEAも同じような傾向があって、アルバイトの時給が1300円というようにやはり最低賃金とは一段階違うレベルの募集条件で話題になることが多いのです。